【ストップコドン導入用DNA断片の調製】
ベクターのクローニング部位の制限酵素配列を5'端に付加したプライマー(forward:
Sma I;reverse:
Sac I or
EcoR I)を作製し、出芽酵母ゲノムDNAを鋳型として、ADE1およびADE2遺伝子の一部領域をPCR増幅した。
| ADE1 | : |
1ヵ所切断サイト SnaB Iを含む約850 bp |
ADE2 | : |
1ヵ所切断サイト Xba Iを含む約1.2 kbp |
各断片をいったんpUC119ベクターに挿入後、LA-PCR
in vitro Mutagenesis Kit(製品コード RR016)を用いて、1ヵ所切断サイトの近傍にストップコドンを二つ導入した。図1の(A)または(B)になる相同領域の比率は下表のように設定した。ストップコドン導入断片をpAUR135ベクターの
Sma I-
Sac Iまたは
Sma I-
EcoR Iサイトに挿入し、ADE遺伝子破壊用プラスミドとした。
マーカー除去株選別の原理(ストップコドン導入の場合)
【遺伝子破壊】
ADE遺伝子破壊用プラスミドをそれぞれ、
SnaB I,
Xba Iで1ヵ所切断し直鎖状として形質転換を行った。宿主一倍体酵母としては、ガラクトース資化性の高いDKD-5D株と、やや弱い13-1A株を用いた。形質転換後、YPD液体培地で一晩培養し、0.5~0.8 μg/mlのオーレオバシジンAを含むYPDプレートに適宜塗布した。30℃で3日間培養後、それぞれから10
3クローン/μg DNA程度の形質転換体が得られた。32クローンずつピックアップし、すべてがアデニン要求性かつAbA耐性であることを確認した。
【マーカー除去株の選別】
アデニン要求性(ADE遺伝子の機能破壊)を確認した形質転換体から8クローンずつを、爪楊枝を用いてYPGalactoseプレート上にストリークし、30℃で培養した。すべての形質転換体で明らかな生育阻害が起こり、GIN11M86の高発現が確認された。ガラクトース資化性の強いDKD-5D株を宿主とした形質転換体では、2~3日で、相同組換えによりマーカー除去体となったコロニーの生育が認められた。
YP Galactoseプレート上でのストリーク(30℃, 3日)
生育コロニーには、アデニン要求性を示す赤色のものと元に復帰したと考えられる白色のものが混在しており、これらのほとんど(ADE1では98%以上、ADE2では98.5%以上のクローン)がオーレオバシジンA感受性を示した。
オーレオバシジンA感受性の比較(30℃, 2日)
マーカー除去の設定と結果
*上図の(A)または(B)になる相同領域の比率。
(A):(B)=(破壊体となる相同領域):(元に戻る相同領域)
さらに、各段階のクローンからゲノムDNAを精製し、PCRおよびサザンハイブリダイゼーションによってマーカー(pAUR135)が除去されていることを確認した。
サザンハイブリダイゼーションによるマーカー(pAUR135)除去の確認
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各株から取得したゲノムDNAを、形質転換に使用したプラスミドを切断しない制限酵素Aor51H IとNsp Vで切断しアガロースゲル電気泳動を行った。プローブには、遺伝子破壊に用いたADE2のDNA断片(A)とpUC18(B)を使用した。 |
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レーン1 | : |
宿主株DKD-5D |
レーン2 | : |
形質転換体(アデニン要求性) |
レーン3, 4 | : |
マーカー除去株(アデニン要求性) |
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一方、ガラクトース資化性の弱い13-1A株を宿主とした実験では、4~5日目でYPGalactoseプレート上にコロニーの生育がみられ、DKD-5D同様、アデニン要求性のクローンと元に復帰したクローンとが混在していた。ただし、マーカー除去率はADE1で92%以上、ADE2で95%以上とやや低かった。このようにして得られたDKD-5D、13-1A株のADE1機能破壊株およびADE2機能破壊株は、宿主株と同レベルのオーレオバシジンA感受性を示し、pAUR135による再度の形質転換が可能である。