遺伝子改変T細胞療法に用いられるJAK/STAT-CARの機能評価

CAR(キメラ抗原受容体)遺伝子治療は、細胞表面に発現しているがん抗原を特異的に認識するCAR遺伝子を、患者由来のリンパ球(T細胞)に導入し、再び生体内へ輸注するがん治療法です。
CD19 CAR遺伝子治療では、B細胞性腫瘍に対して非常に高い奏効率が報告されていますが、再発率の高さが問題となっています。また、固形がんに対するCAR遺伝子治療の臨床効果は現時点では不十分であり、最適な標的の選択やCARの構造の更なる改良が必要です。CAR遺伝子治療の解決すべき課題の一つとして、CAR-T細胞の体内での持続性の向上が挙げられています。これまでに、搭載するシグナルドメインにより、抗原特異的活性や生体内での持続性が異なり、さらにCARによる抗原非特異的活性(トニックシグナル)は、CAR-T細胞の疲弊や長期的な免疫再構築に寄与する幹細胞様メモリーT細胞の減少を引き起こすことが報告されています。
今回、JAK/STATシグナル伝達系を活性化させる機能を付加したCAR-T細胞は、高い抗原特異的な細胞増殖と細胞傷害活性を有し、またマウスin vivoモデルにおいても高い抗腫瘍効果を有することを確認しました。
JAK/STATシグナル伝達系を活性化させる機能を付加したCAR導入T細胞

お客様のご要望に応じたJAK/STAT-CAR発現レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターの構築および作製を承ります。お気軽にご相談ください。

【実験結果】
  1. 疲弊マーカーの発現抑制効果
    レトロウイルスベクターを用いてJAK/STAT型(JS)または従来型(28z)CARを遺伝子導入したT細胞の腫瘍細胞共培養時の疲弊マーカー (TIM3、PD1、LAG3) の発現量を調べた。コントロールには、非遺伝子導入T細胞(NGMC)を使用した。
    抗原刺激後の疲弊マーカーTIM3やLAG3の陽性率は、従来型CAR-T細胞に比べJAK/STAT型CAR-T細胞では有意に低いことが確認できた。
    疲弊マーカー陽性率比較
    疲弊マーカー陽性率比較
  2. 抗原特異的な細胞増殖
    レトロウイルスベクターを用いて、JAK/STAT型(JS)または従来型(28z)抗CD20-CARをT細胞に導入し、K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病由来)およびCD20抗原強制発現K562細胞(K562-CD20)と共培養し、CD20抗原の有無によるCAR-T細胞の増殖性を比較した。
    2回抗原刺激後、JAK/STAT型CAR-T細胞は、K562-CD20細胞に対する抗原特異的な細胞増殖を示した。一方で、従来型CAR-T細胞は抗原非特異的な細胞増殖を示した。
    細胞数の変化
    細胞数の変化
  3. 連続抗原刺激に対する細胞傷害活性の維持
    レトロウイルスベクターを用いて、JAK/STAT型(JS)または従来型(28z)抗CD19-CARをT細胞に導入した。JAK/STAT型CAR-T細胞および従来型CAR-T細胞に、CD19陽性NALM-6細胞(急性リンパ性白血病細胞由来)を連続的に添加し、細胞傷害活性の持続性を比較した。
    NGMCでは、NALM-6細胞の増殖が認められたが、JAK/STAT型CAR-T細胞や従来型CAR-T細胞ではNALM-6細胞の増殖が顕著に抑制された。また、NALM-6細胞の連続添加に対して、従来型CAR-T細胞では、14日目以降NALM-6細胞の増殖が確認され、細胞傷害活性の低下が認められたが、JAK/STAT型CAR-T細胞では、NALM-6細胞の増殖は抑制されており、細胞傷害活性の維持を示した。

    実験スケジュール

    実験スケジュール

    NALM-6細胞数
    NALM-6細胞数
  4. マウスin vivoモデルでの抗腫瘍効果
    JAK/STAT型(JS)CAR-T細胞と従来型(28zおよびBBz)CAR-T細胞の抗腫瘍効果をin vivoマウスモデルで評価した。
    担がんマウスに、あらかじめin vitroにて抗原刺激を行った各CAR-T細胞胞を投与し、その後のマウスの生存率を比較した。
    NGMCや従来型CAR-T細胞(28z型やBBz型)投与群では8週間目にはほとんどのマウスが死亡したが、JAK/STAT型(JS)CAR-T細胞投与群では12週目においても全てのマウスが生存しており、in vivoでの高い抗腫瘍効果を確認した。
    マウスin vivoモデルでの抗腫瘍効果

    マウス生存率
    マウス生存率
    Kagoya Y, et al., Nature Medicine 2018, 24(3), 352-359.

    JAK/STAT-CAR-T細胞は従来型CAR-T細胞と比較すると、疲弊マーカー発現が低く、抗原特異的な高い細胞増殖が認められ、抗原連続刺激に対し長期的な細胞傷害活性を有することが示された。また、in vivoマウスモデルにおいても、JAK/STAT-CAR-T細胞による強い抗腫瘍効果が確認された。