細胞製剤製造

短期(2日間)製造法(Spo-T™法)で調製したCAR-T細胞の特性解析

CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法は、がん抗原を特異的に認識するCAR遺伝子を患者由来のリンパ球(T細胞)に導入し、再び患者に輸注する治療法です。血液癌などで高い有効性を示す新しい治療法である一方、CAR-T細胞の製造期間の長さが1つの課題となっています。通常、CAR-T細胞の製造には7~14日間の培養および品質試験期間を要します。長期の培養期間は、患者への投与までに時間を要することやT細胞の分化および疲弊に繋がるなど、治療効果が低減するだけでなく、製造コストにも影響します。
そこで、タカラバイオではレンチウイルスベクターを用いて短時間でCAR-T細胞を製造する方法を検討しました。

【実験結果】
  1. CAR-T細胞培養期間の比較
    CD4/CD8細胞を選択的に分離したT細胞をCD3/CD28ビーズで刺激し、翌日にレンチウイルスベクターでHER2-CAR遺伝子を導入した。培養開始2日で凍結した細胞(Day2細胞)と、4日目と7日目に拡大培養して製造開始9日で凍結した細胞(Day9細胞)を比較した。
    Day2細胞とDay9細胞の比較
    1. 抗原刺激後の細胞増殖と疲弊マーカー発現
      HCT15細胞(HER2発現細胞)とCAR導入細胞を3日間共培養した後、CAR導入細胞の増殖は、Day2細胞で優位に高かった。また、Day9細胞の方が疲弊マーカーを発現している細胞の比率が高かった。
      抗原刺激後の細胞増殖
      抗原発現細胞HCT15 共培養3日後の疲弊マーカー発現評価
    2. 細胞傷害活性
      HCT15細胞に対する細胞傷害活性をxCELLigence RTCA(Agilent社)を用いて評価した結果、Day2細胞で高い細胞傷害活性が確認された。
      抗原発現細胞HCT15に対する傷害活性をxCelligence RTCA label-free systemを用いて評価
  2. RetroNectin/OKT3刺激法による製造法の開発
    RetroNectin/OKT3(RN/OKT3)刺激により誘導されたT細胞は、未分化(ナイーブ)な細胞集団を多く含む特徴がある。そこで、CD3/CD28ビーズの代わりにRN/OKT3により刺激することで、よりナイーブな細胞を保つことができるかを検討した。
    1. CD4/CD8陽性率、CAR陽性率、ナイーブ細胞比率
      CD4細胞とCD8細胞の比率は、Day9細胞においてRN/OKT3刺激でCD8細胞比率が上昇した。Day2細胞は刺激方法による差はなかった。
      CARは、RN/OKT3刺激でもDay2細胞では完全に発現が成立していなかった。Day9細胞で、RN/OKT3刺激で高いCARの陽性率が観察された。
      ナイーブ比率(CCR7+CD45RA+比率)は、Day2細胞では同等であったが、Day9細胞ではRN/OKT3で高かった。
      CD4/CD8陽性率 CD4/CD8陽性率
      CAR陽性率CAR陽性率
      ナイーブ細胞比率ナイーブ細胞比率
    2. 抗原刺激後の細胞増殖と疲弊マーカー発現
      HCT15細胞共培養3日後の細胞増殖は、Day2細胞において刺激方法による顕著な差はなかったが、RN/OKT3刺激ではCD3/CD28ビーズ刺激より疲弊マーカーを発現している細胞が少なかった。
      抗原発現細胞HCT15 共培養3日後の細胞増殖を評価
      抗原発現細胞HCT15 共培養3日後の疲弊マーカー発現を評価
    3. 細胞傷害活性
      HCT15共培養後、Day2細胞においてRN/OKT3刺激でCD3/CD28ビーズ刺激より高い細胞傷害活性が見られた。
      抗原発現細胞HCT15に対する傷害活性をxCelligence RTCA label-free systemを用いて評価
2日間でCAR-T細胞を製造する方法を検討し、従来の製造法と比べてCAR-T細胞の性能が高いことが示唆されました。また、短期間製造法においても、RetroNectin/OKT3刺激法が高機能を有するCAR-T細胞製造法であることが示されました。
短期間で遺伝子導入T細胞を製造するこの方法をSpo-T法と名付けました。

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