遺伝子導入

マウス生体内細胞への遺伝子導入(TransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solution)

A.キット以外に用意するもの
1. 核酸(高純度のDNAまたはsiRNA)
2. 注射筒(3 ml)
3. 注射針(27 gauge、0.5 inch)
4. マイクロチューブ
5. マウス(体重18~25 gのもの)
6. alchol swab
7. 麻酔薬(Halothane,Methoxyflurane、Isofluraneなど)
8. 適当な熱源(~37℃のお湯や120Wのライト)
9. Mouse restraint device
10. 安全手袋、安全めがね


B.尾静脈注射用サンプルの調製
1. 核酸の準備
DNAは、高純度(A260/A280>1.8)でエンドトキシンや蛋白質の混入がない核酸を使用することが重要である。エンドトキシンの除去にはMiraCLEAN Endotoxin Removal Kit(製品コード MIR5910)が便利である。
siRNAは高純度で適切な配列のものを準備する。
2. 以下の方法で注射に必要な液量を計算する。
マウス尾静脈への注射量はマウスの体重(g)の1/10量(ml)とする。

   静注total volume(ml)=マウスの体重(g)/10+0.1 ml*
    * 注射筒や針に残る分を考慮して0.1 ml追加する。

例えば、体重20 gのマウスの場合、注射量は2.1 ml必要となる。
使用するマウスは18~25 gのものが適当であり、注射量は1.9~2.6 ml必要となる。
3. 注射に使用する核酸量を決定する。推奨使用量は1~50 μgである。
核酸の使用量は、個々に検討が必要であるが、まずはDNA 10 μg、またはsiRNA 40 μgで試してみるとよい。
4. 2.で算出した注射に必要な液量から3.で決定した核酸量を引き算し、TransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solutionの使用量を求める。

例)20 gのマウスに核酸 10 μgを注射する場合
  核酸溶液(1 mg/ml) 10 μl
TransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solution 2.09 ml

Total volume 2.1 ml

5. 注射する直前に、核酸を滅菌済みのプラスチックチューブに入れる。
6. 必要量のTransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solutionを加えて、よく混合する。 核酸とDelivery Solutionの混合液は、30分以内に注射に使用する。
7. 注射筒に注射針を取り付け6.で調製した液の全量を満たす。注射針や注射筒に空気が残らないように注意する。


C.マウスの準備
注意: 実験動物は、5-6週齢までの若いマウスを使用してください。体重は18~25 gの範囲のものが適当です。
1. 必要があれば、マウスに麻酔を施し、適当な方法で固定する。
(注)注射による麻酔は避けてください。Mouse restraint deviceを使用する場合は、麻酔は必要ありません。
2. 静注操作をしやすくするため、注射を行う前にマウスの尾をお湯(~37℃)やライトで3~5分温めることで、尾静脈を拡張させる。


D.尾静脈注射の手順
注意: TransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solutionと核酸の混合液は、注射の直前に室温で混合してください。混合後は30分以内に使用してください。
1. 静脈を拡張させた尾を固定し、注射する部分をalcohol swabで拭って、血管を浮き出させる。
2. 注射針が尾静脈にほぼ平行になるように注射筒を持ち、針を尾静脈に挿入する。 できるだけ、尾の先端に近い位置が望ましい。注射針が正しく挿入できたかどうか確認するために、少量の液を注入する。正しく挿入できていてば、血管の血液の色が薄くなる。明らかに圧力を感じた場合は、注射針が正しく挿入されていない。正しく挿入できていないと、尾の組織が変色し膨張する。そうなった場合は、一旦注射針を抜いて、改めて別の箇所に挿入する。
3. 経路を確保できたら、注射筒内の全量をマウス尾静脈に注入する。途中で針が抜けてしまわないように注意する。この時、一定の速度で素早く注入することが非常に重要である。4~7秒で全量を投与する。


E.静注後
注射後のマウスは(麻酔を行った場合には麻酔から覚めた後)、ケージに戻し、通常通りに飼育する。遺伝子発現のための特別な操作は不要である。


F.遺伝子の発現
尾静脈注射による遺伝子導入を行った後、適当な期間を置いて、マウス生体内での遺伝子発現を確認する。
DNAを導入した場合は、通常、最大の遺伝子発現は注射後、8~24時間で見られるが、遺伝子発現用に使用したプロモーターの種類や遺伝子自体、また臓器によっても発現のピークは変化することがある。従って、目的に応じてプロモーター、プラスミドなどの構造、臓器の種類などの諸条件を検討する必要がある。
たとえば、CMVプロモーターを用いた場合、発現は24時間以降、急速に低下する傾向が見られる。一方、発現レベルの低いレポーター遺伝子の場合、3週間後もなお、発現が確認されることがある。(注意:免疫力の強いマウスを使用した場合、外来遺伝子の発現によって引き起こされた免疫反応により、外来蛋白を発現した細胞が排除される可能性がある。)
siRNAを導入した場合は、インジェクション後24時間で確認するとよい。しかしながら、効果が出るまでの時間は、ターゲットとなるmRNAの種類や発現タンパク質の半減期、siRNA配列などによって変化することがある。良好な結果を得るには、条件を変えて検討を重ねる必要がある。
分泌蛋白の場合、静注後、適当な時期に採取した血清サンプルで遺伝子の発現を測定することができる。細胞内で発現する場合は、目的の臓器を取り出し、活性測定や組織染色など適当な方法で遺伝子発現を確認する。