【ユーザー様実施例】Guide-it™ Long ssDNA Production Systemを用いたノックインマウスの作製 (マイクロインジェクション法によるマウス受精卵のゲノム編集)

データご提供:国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第6部 井上(上野) 由紀子様、森本 由起様

国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第6部 井上(上野)由紀子様から、Guide-it Long ssDNA Production System(製品コード 632644:終売)を用いた実施例をご提供いただきました。是非ご一読ください。
ねずみ画像


<研究内容>

社会性行動や発達障害に関わる遺伝子座に着目して自身の研究を進めるとともに、研究所内外の共同研究者に対して、ゲノム編集マウス作製支援を行っている。特に、神経発生・精神神経疾患・筋疾患において重要な役割を果たす遺伝子の発現を可視化/操作できるノックインマウスを多数作製している。

<実施例>

  • 本製品を使用するに至った経緯
    タカラバイオの「Guide-it Long ssDNA Production System」を使う以前は、他の方法でノックイン用の長鎖一本鎖DNA(long ssDNA)を調製していた。2017年に参加した日本ゲノム編集学会第2回大会で本製品を知り、RNAへの転写やゲル抽出などの煩雑な操作が不要な点や、ssDNA調製に必要な試薬がキット化されている点などから、当時行なっていた調製法よりも簡便そうだと思い購入するに至った。
  • 実験内容
    本キットでlong ssDNAを調製するには、PCR増幅用のテンプレートDNA(インサート配列と左右の相同アームからなる二本鎖DNA断片)が必要である。ターゲット毎に人工合成遺伝子をオーダーし、それらを鋳型として、long ssDNAを調製した(下図)。調製したlong ssDNAをノックイン用のドナーDNAとして、Cas9タンパク質およびガイドRNAと共にB6C3F1マウス由来の受精卵にマイクロインジェクション法で導入し、産仔数をカウントした。産まれたマウスにインサート配列が正しく挿入されていることをシーケンス解析により確認し、その数をカウントした。

    実験内容
  • 実験結果
    ターゲット遺伝子(Gene A~D)に対して正確にノックインされたマウスの数を下表にまとめた。 横にスクロールできます
    遺伝子ノックインカセット (bp)相同アーム (bp)テンプレートDNA
    準備方法
    卵管移植した
    受精卵数
    産仔数正確なノックイン効率
    Gene B1,116 bp293 bp, 304 bp人工合成遺伝子1557342%
    Gene C1,362 bp307 bp, 238 bp人工合成遺伝子1362827%
    Gene D1,277 bp257 bp, 273 bp人工合成遺伝子495120%

    また、上述の人工合成遺伝子や手持ちのプラスミドDNAを元にして、左右の相同アームをIn-Fusion HD Cloning Kit(製品コード 639648)を用いてクローニングし、long ssDNAのテンプレートを作製した。下表のように、これらをテンプレートとしてssDNAを調製した場合も、効率良くノックインマウスを得ることができた。
    横にスクロールできます
    遺伝子ノックインカセット (bp)相同アーム (bp)テンプレートDNA
    準備方法
    卵管移植した
    受精卵数
    産仔数正確なノックイン効率
    Gene A1,125 bp297 bp, 313 bpIn-Fusion Cloning6013323%
    Gene B1,362 bp293 bp, 304 bpIn-Fusion Cloning6210220%
    Gene C1,116 bp307 bp, 238 bpIn-Fusion Cloning685240%

  • 本製品の感想など
    インサート配列と左右の相同アームからなる二本鎖DNAテンプレートを人工合成遺伝子として準備すれば、Guide-it Long ssDNA Production Systemを用いることにより、面倒なクローニング操作を全く行わずにin vivoでノックインマウスを作製することができる。目的のマウスが得られるまでの作業時間も短縮され、1回の受精卵インジェクションにより必要な数のマウスを確実に取得できるようになった。ノックインする遺伝子カセットの配列によってはPCR条件の至適化が必要であるが、1.5 kb程度のlong ssDNAをシンプルな操作で調製することができ、受託サービスでssDNAの人工合成物を注文するよりもコストを大幅に抑えることができるので、今後も引き続き使用予定である。