SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs (ZapR Mammalian) は、250 pg~10 ngのヒト、マウス、ラットのtotal RNAまたは10~1,000個のインタクトな細胞から、イルミナ社次世代シーケンサー対応のライブラリーを調製するキットです。高品質のRNAはもちろん、FFPEやLCMサンプルから調製された分解の進んだ低品質RNA*も使用することができます(* 低品質RNAの場合は500 pg~10 ng)。本キットは、SMART(Switching Mechanism at 5' End of RNA Template)テクノロジーを用いており、逆転写およびPCR増幅ステップでインデックスとアダプターを組み込むシームレスなワークフローにより、Strand情報を保持したライブラリーを調製できます。更に、逆転写ステップで8塩基の個別の分子バーコード(Unique Molecular Identifier:UMI)も付加されるため、PCR増幅バイアスによる影響とシーケンスエラーが軽減され、より正確で信頼性の高いNGS解析が可能となります。
本キットのワークフローにはrRNA特異的プローブを使用した独自技術によってrRNA(および一部ミトコンドリアRNA)由来のcDNAを除去する工程が含まれているため、別途リボゾームRNA除去試薬を用意する必要はなく、rRNAへのマッピングが低い再現性の高いデータが得られます。
ライブラリー調製、精製を含む全ての操作は6.5時間で終了し、別売りのUnique Dual Index Kit(製品コード 634752~634756)と組み合わせることにより、最大384サンプルのマルチプレックス解析に対応可能です。
図1. 実験フローチャート
図2. SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs (ZapR Mammalian) を用いて調製された最終ライブラリーの構造
Unique Dual Index Kit(製品コード 634752~634756)を用いて付加された配列には、イルミナ社シーケンサーのフローセルでクラスタリングできる配列(P7、P5、Index 1 [i7]、Index 2 [i5])と、シーケンスプライマーRead 2およびRead 1を認識する領域が含まれている。Read 1では元のRNAのアンチセンス側の配列が得られ、Read 2では元のRNAのセンス側の配列が得られる。Read 2の最初の8塩基はUMIで、その下流にUMIリンカー3塩基(NNN)とSMART UMI Adapter由来の3塩基(XXX)が続く。paired-end sequencingを行った場合、SMART UMI Adapter由来の3塩基(XXX)をマッピングの前にトリミングする必要がある。
図3. 異なるRNAインプット量から調製したライブラリーのrRNA由来cDNA除去効果と遺伝子数、トランスクリプト数の評価
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIsを用いて、250 pgおよび10 ngのヒト脳total RNAからライブラリーを調製後、キットに含まれるZapR Mammalian rRNA Depletion KitによるrRNA由来cDNA除去処理(ZapR treatment)を実施したものと実施しないもので比較した。ZapR treatmentしたものはPCR増幅による濃縮後、ZapR treatmentしないものはそのままシーケンスに使用した。それぞれのライブラリーについて3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析し、その結果を棒グラフ(パネルA)と表(パネルB)に示した。
250 pg 、10 ngのいずれのインプット量でも、ZapR treatmentしたライブラリーのrRNA readsの割合は10%以下となっており、幅広いレンジでrRNA由来cDNAが効率よく除去されることが示された。また、ZapR treatmentしたライブラリーでは、遺伝子数、トランスクリプト数が増加した。
図4. インプット量の異なるサンプル間での相関性
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs (ZapR Mammalian) を用いてヒト脳total RNA 250 pgおよび10 ngからRNA-Seqライブラリーを調製し、それぞれのライブラリーについて、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析して相関性を調べた。その結果、インプット量250 pgと10 ngの間で高い相関性が得られた。
図5. ヒト初代B細胞から調製したtotal RNA-Seqライブラリーの遺伝子数とトランスクリプト数
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIsを用いて、ヒト初代B細胞のtotal RNA 1 ngからライブラリーを調製後、キットに含まれるZapR Mammalian rRNA Depletion KitによるrRNA由来cDNA除去処理(ZapR treatment)を実施したものと実施しないもので比較した。ZapR treatmentしたものはPCR増幅による濃縮後、ZapR treatmentしないものはそのままシーケンスに使用した。それぞれのライブラリーについて、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析し、その結果を棒グラフ(パネルA)と表(パネルB)に示した。
その結果、ZapR treatmentしたライブラリーのrRNA readsの割合は10%以下となっており、rRNA由来cDNAが効率よく除去されることが示された。また、ZapR treatmentしたライブラリーでは、遺伝子数、トランスクリプト数が増加した。
図6. ヒト初代B細胞から調製したライブラリーのレプリケート間での比較
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs (ZapR Mammalian) を用いて、1 ngのヒト初代B細胞のtotal RNAからduplicateでライブラリーを調製し、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析して相関性を調べた。その結果、レプリケート間で高い相関性が示された。
図7. 分解を受けたFFPE RNAサンプルから調製されたライブラリーの評価
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs (ZapR Mammalian) を用いて、10 ngのFFPE RNA(RIN=3、DV200=77%)からduplicateでライブラリーを調製し、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析し、その結果を棒グラフ(パネルA)と表(パネルB)に示した。その結果、分解を受けたサンプルからでもレプリケート間で高い再現性が示された。
図8. rRNA除去試薬の新/既存製品比較
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIs(新製品)を用いて、250 ngのヒト脳total RNAからライブラリーを調製後、キットに含まれるZapR Mammalian rRNA Depletion KitによるrRNA由来cDNA除去処理(ZapR treatment)を実施し、PCR増幅により濃縮した。コントロールとしてZapR treatmentしていないライブラリーをそのまま用いた(No depletion)。更に、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit v3 - Pico Input Mammalian(既存製品)を用いて、250 ngのヒト脳RNAからライブラリーを調製した。
それぞれのライブラリーについて、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析し、リード分布を比較した。
ZapR Mammalian rRNA Depletion Kitで処理したライブラリーのリード分布は、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit v3 - Pico Input Mammalianで調製したライブラリーと比較したところ、rRNAのリードの割合が減少してExonのリードの割合が増加し、rRNA除去試薬の性能向上が示された。
図9. マウス脳total RNA-Seq ライブラリーのrRNA除去効率と遺伝子数、およびトランスクリプト数
SMART-Seq Total RNA Pico Input with UMIsを用いて、250 ngのマウス脳total RNAからライブラリーを調製後、キットに含まれるZapR Mammalian rRNA Depletion KitによるrRNA由来cDNA除去処理(ZapR treatment)を実施したものと実施しないもので比較した。ZapR treatmentしたものはPCR増幅による濃縮後、ZapR treatmentしないものはそのままシーケンスに使用した。それぞれのライブラリーについて、3×106ペアエンドリードをCogentAPで解析し、リード分布(パネルAとパネルC)と遺伝子数(パネルBとパネルC)を示した。
その結果、ZapR treatmentしたライブラリーでは、遺伝子数が増加した。