糖タンパク質はヒト生体内のタンパク質の50~60%を構成しており、大半の細胞表面マーカーや分泌型タンパク質も糖タンパク質である。質量分析などにより特異的な糖タンパク質を同定するには、複雑なサンプルから糖タンパク質とそれ以外のものを分離しなければならない。
Glycoprotein Enrichment Resinは
m-アミノフェニルボロン酸リガンドを結合させたアガロースビーズで、複雑なサンプルから糖タンパク質の濃縮/精製を行うことができる。
m-アミノフェニルボロン酸は、マンノース、ガラクトース、グルコースなどの糖残基のシス-ジオール基と可逆的に五員環複合体を形成して結合する(図1)。この複合体はpHを下げる、もしくはTrisあるいはソルビトールを含む溶出バッファーにより分離することができる。
図1. Glycoprotein Enrichment Resinと糖の結合
アガロースビーズと結合したm-アミノフェニルボロン酸はマンノース、ガラクトース、グルコースなどのシス-ジオール基と可逆的に五員環複合体を形成し結合する。複合体はpHを下げる、もしくはTrisまたはソルビトールを含む溶出バッファーにより分離可能である。
フェニルボロン酸樹脂は、糖化反応(Glycation)などの非酵素的グリコシル化を受けたタンパク質と同様に、不均質な
O-結合型オリゴ糖を含む糖タンパク質の精製にも適している。本樹脂は、レクチンや多糖修飾に特異的な抗体を使用するアフィニティー樹脂以上に幅広い糖タンパク質の精製に使用できる。このように、Glycoprotein Enrichment Resinは様々な血清タンパク質の研究において複雑なサンプルから糖タンパク質の濃縮/精製を行う際に理想的であり、糖タンパク質精製後の様々なアプリケーションで全般的な感度を向上させることができる。
優れた特異性
Glycoprotein Enrichment ResinとS社の樹脂を、ヒト血清からの糖タンパク質精製に関して比較した。S社樹脂の溶出画分には非糖タンパク質であるヒト血清アルブミン(HSA)が糖タンパク質IgGよりも高く濃縮されており(図2、パネルB)、さらにS社樹脂のフロースルー画分には保持しきれなかったIgGが検出された(図2、パネルA)。一方、Clontechの樹脂ではIgGをメインに糖タンパク質の特異的な精製が行われており、これらの結果はSDS-PAGE(図3、パネルA)とウェスタンブロッティング(図3、パネルB)でも同様に確認された。
図2. Glycoprotein Enrichment Resinの特異的な糖タンパク質との結合
Glycoprotein Enrichment Resin 1 mlを充填した自然落下式カラムを水で洗浄した。ローディングバッファー(50 mM HEPES, 0.5 M NaCl, pH 8.5)で平衡化後、50 μlヒト血清を2.5 mlに希釈した溶液をカラム中で20分間インキュベートした。その後カラムをローディングバッファーで洗浄し、溶出はローディングバッファーに100 mM Trisを加えたものを使用した。他社製樹脂についても同様にヒト血清50 μlの精製を行った。バッファーや条件は付属の説明書に従った。全ての画分はゲルフィルトレーションカラム(Superdex 200 HR 10/30)によるFPLCにより分析を行った。パネルAはClontech樹脂と他社製樹脂のフロースルーの比較、パネルBは溶出した糖タンパク質の画分の比較を示す。Clontechのフロースルー画分には非グリコシル化HSA (Human Serum Albumin) のみが含まれ、溶出画分には主にIgG(糖タンパク質)が含まれていた。一方、他社製樹脂のフロースルー画分には結合しきれなかったIgGが認められ、また、溶出画分にはIgGと共にHSAも含まれていた。これはHSAが非特異的に結合していることを示している。
図3. SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによるGlycoprotein Enrichment Resinと他社製レジンとの比較
パネルA:図2.で示した各画分をSDS-PAGEで分析した。クマシー染色ゲルで見られるように、他社製樹脂はHSAの結合(レーン6)、およびフロースルーでのIgGのリーク(レーン5)が確認できる。
パネルB:同じ画分でヒトIgG特異的抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果、Clontechの樹脂はグリコシル化IgGを確実に保持しており(レーン3)、フロースルー画分でのIgGの漏出は見られなかった(レーン2)。一方、他社製レジンはフロースルー画分で結合しきれなかったIgGが検出されている(レーン5)。レーンM:分子量マーカー レーン1, 4:ヒト血清 レーン2, 5:フロースルー レーン3, 6:溶出液(糖タンパク質)
微量な糖タンパク質も効率的に精製
Glycoprotein Enrichment Resinは、簡便かつ効率的にわずかな量の糖タンパク質も精製可能である。ヒト血清に含まれる糖タンパク質のなかでも、微量しか含まれていないα-1アンチトリプシンとα-1グリコプロテインも濃縮/精製されていることが、特異的抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認された(図4)。
図4. Glycoprotein Enrichment Resinは糖タンパク質のみを特異的に精製
濃縮精製画分を、2種類の血清に特異的な糖タンパク質、α-1アシドグリコプロテイン(パネルA)およびα-1アンチトリプシン(パネルB)に対する抗体を用いてウェスタンブロッティング解析を行った。レーン1:ヒト血清 レーン2, 3:溶出画分
非吸着画分にわずかなロスが見られたものの(Data not shown)、レーン2と3で確認できるようにα-1アシドグリコプロテイン(51 kDa)とα-1アンチトリプシン(44 kDa)は本樹脂に結合していたことが分かる。
プロテオミクス同様、糖タンパク質は病気診断に重要だが、血清アルブミンなどの大量の非糖タンパク質にマスクされてしまうと検出が困難になり、質量分析などその後の解析に支障をきたす。また、血清や尿、脊髄液などのサンプルを直接質量分析計で分析する場合も、塩類のコンタミネーションによりイオン化が干渉され阻害を受けてしまう。ClontechのGlycoprotein Enrichment Resinは複雑なサンプルに含まれる塩類のコンタミネーションを防ぎ、糖タンパク質を特異的に濃縮/精製してその後の解析を促進する。
迅速かつ高感度にウェスタンブロッティングで糖タンパク質を検出
Glycoprotein Enrichment Resinの関連商品、Glycoprotein Western Detection Kitはウェスタンブロッティングで選択的に糖タンパク質を染色するために開発された。このキットは改良した過ヨウ素酸シッフ法を採用している。過ヨウ素酸シッフ試薬は糖質に含まれる隣接ジオール基を過ヨウ素酸で酸化しマゼンダ色の化合物を形成する。 この方法は糖タンパク質の染色に一般的に使用されているものである。 本キットは約1時間で高感度かつ選択的にメンブレンにトランスファーされた糖タンパク質を検出することができる。
糖タンパク質を特異的に分析するツールとして、Clontechの簡便かつ効率的なGlycoprotein Enrichment ResinとGlycoprotein Western Detection Kitをぜひご活用ください。
図5. Glycoprotein Western Detection Kitによる精製糖タンパク質の高感度検出
3種類の精製糖タンパク質、フェチュイン(fetuin;レーン1~5)、α-1アシドグリコプロテイン(AGP;レーン6~10)、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP;レーン11, 12)の各量を、4-15% SDS-PAGE ゲルで電気泳動後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、Glycoprotein Western Detection Kitを用いて検出した。
レーンM:分子量マーカー レーン1:1μg fetuin レーン2:500 ng fetuin レーン3:200 ng fetuin レーン4:100 ng fetuin レーン5:50 ng fetuin レーン6:1μg AGP レーン7:500 ng AGP レーン8:200 ng AGP レーン9:100 ng AGP レーン10:50 ng AGP レーン11:350 ng HRP レーン12:140 ng HRP