SMART(Switching Mechanism at 5’End of RNA Template)法は、別途アダプターライゲーション反応を行うことなく、1st strand cDNA合成時にcDNAの両末端に既知の配列を組み込むことができるClontech独自の技術である。また、シンプルで効率的なシングルステッププロトコールにより、非常に少量のtotal RNAからも完全長cDNAの合成とその増幅が行える。LCM(laser-capture microdissection)サンプル由来のtotal RNAやフローサイトメトリーで分取した細胞由来のtotal RNAなど、希少なサンプルからのcDNA合成にもSMART法は非常に有用である。
SMARTer PCR cDNA Synthesis Kit(製品コード 634925、634926)は、SMART PCR cDNA Synthesis Kit(製品コード 634902)のバージョンアップ製品であり、SMARTer Pico PCR cDNA Synthesis Kit(製品コード 634928)は、Super SMART PCR cDNA Synthesis Kit(製品コード 635000)のバージョンアップ製品である。SMARTerキットには、新たに設計されたSMARTer II A Oligoと新しい逆転写酵素 SMARTScribe Reverse Transcriptaseが採用され、従来製品よりもさらに高感度でバックグラウンドの少ないcDNA合成が可能になった。
SMARTer PCR cDNA Synthesis Kitで出発材料として必要なtotal RNA量は2~1,000 ngであり、従来製品(必要量:50~1,000 ng)よりはるかに微量なtotal RNAからも高品質cDNAの合成が可能である。さらに、SMARTer PicoキットではSMARTerキットのプロトコールを改良することで(反応容量を増やしカラム精製を追加)、少量(1 ng)あるいは非常に濃度の低い(20 pg/μl)total RNAからも高品質二本鎖cDNAを合成することができる。(表1)
表1. SMARTerとSMARTer Picoプロトコールの比較*
SMARTer | SMARTer Pico |
2~1,000 ngのtotal RNA 逆転写反応の液量:3.5 μlまで 鋳型total RNA の濃度:> 0.6 μg/μl | 1~1,000 ng のtotal RNA 逆転写反応の液量:50 μlまで 鋳型total RNAの濃度:> 20 pg/μl |
SMARTer first-strand cDNA 合成 液量= 50 μl | SMARTer Pico first-strand cDNA 合成 液量= 106 μl |
TE バッファーによる希釈 液量= 50 μl | Nucleo Spin Column による精製 カラム溶出液の量= 80 μl |
10 μlのcDNAをSMARTer PCR増幅に使用
- 100 μl反応
- サイクル数の最適化およびスケールアップ
|
80 μlのcDNAをSMARTer Pico PCR 増幅に使用
- 100 μl反応
- サイクル数の最適化およびスケールアップ
|
NucleoSpin によるPCR 産物の精製 | NucleoSpin によるPCR 産物の精製 |
ds cDNA の収量:1~2 μg | ds cDNA の収量:1~2 μg |
* 両者の違いを太字で示す
表2. 各製品に必要なtotal RNA量
製品名 |
必要なtotal RNA量 |
SMARTer PCR cDNA Synthesis Kit |
2~1000 ng |
SMARTer Pico PCR cDNA Synthesis Kit |
1~1000 ng |
SMART PCR cDNA Synthesis Kit(従来品) |
50~1000 ng |
Super SMART PCR cDNA Synthesis Kit(従来品) |
2~1000 ng |
SMARTerおよびSMARTer Pico PCR cDNA Synthesis Kitを使用すると、さまざまな用途で利用可能な高品質のcDNAを合成することができる。
・Clontech PCR-Select cDNAサブトラクション
本法は発現量に差がある遺伝子の特定に極めて有用な方法であり、出発材料が少量の場合でも利用可能である。SMARTer PCR cDNA Synthesis Kitで合成したcDNAは、Clontech PCR-Select cDNA Subtraction に直接使用することができる。
・バーチャルノーザンブロットの作製
標準的なノーザンブロットを行うために十分なpoly A+ RNAやtotal RNAがない場合には、SMARTer cDNAを用いてバーチャルノーザンブロットを作製することができる。
・ライブラリー構築やPCRによる遺伝子増幅
本キットで合成したcDNAを用いて、任意のベクターでライブラリー構築が可能である。Sfi I制限酵素サイトを利用した簡便かつ定方向でのcDNAライブラリー構築には、SMART cDNA Library Construction Kit(製品コード 634901)が最適である。既知配列を利用して、直接遺伝子増幅を行うこともできる。3’配列あるいは5’配列が未知の場合には、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(製品コード 634923、634924)の使用をお勧めする。
内容
SMARTer PCR cDNA Synthesis Kit
(製品コード 634925、634926)
・SMARTer II A Oligonucleotide (12 μM)
・Control Total RNA
・3’SMART CDS Primer II A (12 μM)
・5× First-Strand Buffer (RNase-Free)
・5’PCR Primer II A (12 μM)
・dNTP Mix (10 mM of each dNTP)
・DTT
・Deionized H2O
・SMARTScribe Reverse Transcriptase
・RNase Inhibitor
・CHROMA SPIN-1000+DEPC-H2O Columns
SMARTer Pico PCR cDNA Synthesis Kit
(製品コード 634928)
・SMARTer II A Oligonucleotide (12 μM)
・Control Total RNA
・3’SMART CDS Primer II A (12 μM)
・5’PCR Primer II A (12 μM)
・5× First-Strand Buffer (RNase-Free)
・dNTP Mix (10 mM of each dNTP)
・RNase Inhibitor
・SMARTScribe Reverse Transcriptase
・Deionized H2O
・NucleoSpin Gel and PCR Clean-up
注:別途、PCR酵素が必要です。ユーザーマニュアルでは、Advantage 2 PCR Kit(製品コード 639207)を用いたプロトコールを紹介しています。
保存
#634925、634926
CHROMA SPIN-1000+DEPC-H2O Columns:室温
Control RNA, SMARTer II A Oligo:-70℃
その他のコンポーネント:-20℃
#634928
NucleoSpin Gel and PCR Clean-up:室温
Control RNA, SMARTer II A Oligo:-70℃
その他のコンポーネント:-20℃