Adeno-X Adenoviral System 3は、In-Fusionクローニングシステムを用いることにより、非常に簡便かつ迅速に効率よく組換えアデノウイルスベクターを構築できるシステムである。このシステムは標準的なトランスフェクション法や他のウイルス発現系と比較して以下の点で優れている。
高いタンパク質発現量
アデノウイルスを介した遺伝子導入法は、哺乳類細胞内で大量のタンパク質を発現できる(1)。標的細胞には目的遺伝子を含む組換えアデノウイルスが高い効率で複数コピー感染するため、目的タンパク質を高いレベル(最大、タンパク質総量の20%)で一過性に発現することができる。
多くの種類の哺乳類細胞に効率よく感染
アデノウイルスはヒト由来細胞の大部分に感染する他、マウス、ラット、イヌ、ニワトリ、ウサギ、ヒツジ、ブタなどヒト以外の哺乳類細胞の多くにも感染する(2~11)。またアデノウイルスは、分裂細胞と非分裂細胞のいずれにも感染する。広範囲の宿主細胞域と高レベルな遺伝子発現の相乗効果により、遺伝子機能解析、RNAi実験、ワクチン開発の他、トランスジェニック動物の研究などにも理想的なシステムである。
短期間で結果が得られる最適化されたプロトコール
Adeno-X Adenoviral System 3は、2~3日間で組換えアデノウイルスが得られるように最適化されている。本システムではIn-Fusionクローニングシステムを採用し、シャトルベクターを経ずに通常のプラスミドへのクローニングと同様に直接Adenovirusベクターに目的遺伝子を導入することができる(図1)。In-Fusionクローニングシステムは、それぞれのDNA断片の末端15塩基が相同であれば、短時間に効率よく、In-Fusion酵素がそれらのDNA断片を融合することができる。制限酵素切断や平滑末端化処理、リガーゼ反応などを行うことなく、1ステップの反応でPCR断片を任意のベクターにクローニングできる。
プレミックスタイプのIn-Fusion Snap Assembly Master Mixでは、反応時間が15分に短縮され、さらにクローニング効率が向上し、質の高いクローニングが可能である。
図1. In-Fusionクローニングを使用した組換えアデノウイルスの構築
目的DNA断片はPCR断片としてIn-Fusionクローニング法により、各種pAdenoXベクターへ迅速にクローニングすることができる。上記例では、目的遺伝子をpAdenoXベクターの末端15塩基と相同な配列を持つように増幅。このPCR産物を精製後、pAdenoXベクターと混合し、In-Fusion反応に使用。In-Fusion反応後、反応液の一部を大腸菌Stellar Competent Cellに形質転換し、スクリーニングを行う。陽性クローンを同定後、組換えpAdenoXベクターを増幅、精製し、制限酵素
Pac Iによる線状化を行い、HEK293細胞へ導入することによりウイルス構築と増幅を行う。
高力価、容易なウイルス増幅、高い安定性
Adeno-Xを始めとした組換えアデノウイルスベクターは細胞内でE1タンパク質を供給するHEK293細胞などのパッケージング細胞でのみ細胞溶解を起こす。即ち、ひとつの細胞から生産されたアデノウイルスは、隣接した細胞に再感染することで増幅することができ、どのような組換えレンチウイルスよりもはるかに高いタイター(>10
9 IFU/ml)を得ることができる(表1)。作製したウイルスは簡単に再増幅させることができ、より多くのウイルス粒子を得ることができる。また、アデノウイルスは高タイターな状態で分注し、長期間凍結保存することができる。
表1. アデノウイルスとレンチウイルスの比較
| アデノウイルス | レンチウイルス |
様々なヒト細胞への感染 | ○ | ○ |
分裂細胞、非分裂細胞への感染 | ○ | ○ |
宿主ゲノムへの非組込み | ○ | × |
高レベルなタンパク質発現(総タンパク質の10~20%以下) | ○ | × |
長鎖インサートDNA(8 kb以下)の保持 | ○ | × |
スケールアップおよび増幅の容易さ | ○ | × |
高タイター(109 IFU/ml以上) | ○ | × |
M.O.I. 25以上の感染 | ○ | × |
pAdenoX-Tet3Gベクターを使用することにより、厳密かつ非常に感度良く遺伝子発現をコントロールすることができる。アデノウイルスベクター上にTet-On 3Gトランス活性化因子とP
TRE3Gプロモーターの両方が搭載されているため、ドキシサイクリン誘導により、厳密にコントロールされた遺伝子発現を簡単に行うことができる(図2)。
図2. Adeno-X Tet-On 3Gにより、非常に高い誘導倍率を得ることができる
Adeno-X Tet-On 3G Systemを用いた誘導倍率は約3,000倍である。高タイターウイルス上清を同量使用し、各Dox濃度で培養を行ったHeLa細胞をAdeno-X Tet-On 3G Luciferase Virusにより感染させ、その後、細胞を回収しルシフェラーゼアッセイを行った。
Universalシステム(製品コード632264, 632265, 632266)はクローニングサイトにプロモーターとpolyAシグナルを含まないため、様々な発現プロモーターを導入して使用することができる。In-Fusion Snap Assembly Master Mixを利用すれば、すでに構築済のベクターから発現カセット全体(プロモーター、目的遺伝子、polyAシグナルを含む)をPCRで増幅し、クローニングすることができる(図3、A)。
Adeno-X Adenoviral System 3(Universal)は標的細胞に応じた最適なプロモーター(EF1αや組織特異的プロモーターなど)を利用することができる。また、構築済shRNAまたはmiRNA発現ベクターの発現カセットをUniversalベクターに組込み、高効率なRNAiデリバリーシステムを作製することもできる。さらに、プロモーター、目的遺伝子などの複数DNA断片をIn-Fusion Snap Assembly Master Mixにより一度にクローニングすることで新規な発現カセットも容易に作製できる(図3、B)。
図3. Universalベクターへの発現カセットのクローニング例
Universalベクターはプロモーター、polyAシグナルを含まないため、様々なタイプの発現カセットをクローニングし、使用することができる。In-Fusion Snap Assembly Master Mix用いれば、構築済ベクターから発現カセット全体のサブクローニングを行ったり(A)、複数のDNA断片を用いた1回のクローニング操作で、容易に新規な発現カセットを作製することが可能である(B)。