SMART-Seq Human TCR (with UMIs)は、イルミナ社次世代シーケンサーを用いたヒトT細胞受容体(TCR)のレパトア解析用ライブラリー調製キットです。本製品はSMARTテクノロジー(Switching Mechanism at 5’End of RNA Template)と5' RACE法の応用によりTCRα鎖、β鎖の完全長V(D)J可変領域の配列を得ることが可能です。
ヒト末梢血白血球のtotal RNA(10 ng~1 μg)、T細胞の1~100 ng total RNA、あるいはインタクトなリンパ球(精製済みT細胞 1,000~10,000個)から高品質のライブラリーが調製できます。本キットでは、個別の分子バーコード(Unique Molecular Identifier : UMI)を付加することにより、PCR増幅バイアスによる影響を取り除き、より正確で信頼性の高いNGS解析が可能です。さらに、最大384個のマルチプレックスイルミナライブラリー調製が可能なユニークデュアルインデックス(
Unique Dual Index Kit:別売り)により、インデックスホッピングによる他サンプルのライブラリー由来のリードコンタミネーションを防止できます。
サンプル | サンプル量 |
PBMC由来total RNA | 10 ng~1 μg |
T細胞由来total RNA | 1~100 ng |
全血由来total RNA | 20~200 ng |
T細胞 | 1,000~10,000細胞 |
図1.SMART-Seq Human TCR (with UMIs)を用いたライブラリー調製の概要
図2.さまざまなRNA量からのクロノタイプの検出
ヒトCD3+T細胞からの各total RNA量または各細胞数からTRAとTRBライブラリーを調製した。得られたシーケンスリードを解析した。
PBMC RNAに白血病細胞Jurkat T細胞(TRBV12-3-TRBJ1-2クロノタイプ)のRNAを各濃度(10%、1%、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%)となるようにスパイクインし、本キットで解析した。100 ng total RNAからTRB CDR3領域を増幅し、イルミナ社NextSeqでシーケンスして、2.5 Mリードを解析した。UMIによるデータ補正をしなかった場合(Without UMI collapse)とUMIによるデータ補正をした場合(With UMI collapse)のスパイクインRNA濃度の検出限界をグレーの網掛けで示している。UMIによるデータ補正がない場合、TRBV12-3の検出限界は0.01%であったが、UMIによるデータ補正を行った場合は、0.001%まで検出できた。
図3. 他社キットとの比較
2検体のPBMCからtotal RNAとgDNAを精製した。1.6 μgのgDNA(Y社)と100 ngのRNA(本キット、X社)から、それぞれライブラリーを調製した。各社キットの使用により得られたTCR α/βライブラリーのクロノタイプの数を示す。本キットでは、TRAが平均48.7 K、TRBが163 K得られた。(NT: not tested)
図4. 広範なサンプルタイプとRNA量からの高感度かつ再現性の高いクロノタイプ検出
Panel A~Cで示しているTRA、TRBのライブラリーを以下に記載したサンプル、RNA量から調製し、解析した。
Panel A:ヒトCD3+細胞のtotal RNA 1、10、 100 ng
Panel B:CD3+T細胞1,000細胞と10,000細胞
Panel C:異なる3サンプルから抽出した全血RNA 20 ng
RNA精製やT細胞の単離の必要なく、多様で複雑なRNAに対応が可能ということが示された。
図5. 広範なクロノタイプカウントの同定
シングルドナーのPBMCサンプル(P1~P6)から抽出したRNA 10 ngを用い、それぞれのライブラリーを調製した。シーケンスはイルミナ社のMiSeqを用いて300 bpペアエンドリードで行い、1サンプルあたり150万リードを得た。それぞれのドナーから得られたTRA(青)とTRB(オレンジ)のクロノタイプ数をグラフに示した。エラーバーは各サンプルから調製したライブラリー間の標準偏差を示す。
検出されたクロノタイプの数によって生物学的変動を明らかにすることが可能である。
図6. 他社製品を圧倒する感度
RNAとgDNA抽出用に、健康な2人のドナーから5M PBMC細胞を単離した。ライブラリーは各社の調製方法に従い、1.6 gのgDNA(抽出したtotal gDNAの15%)、100 ngのRNA(抽出したtotal RNAの2%)から調製した。
ダウンサンプリング後のTRBライブラリーにおいて、他社製品よりも劇的に高いクロノタイプ数を得られた(TRAも同様の結果のため示さず)。