SMART-Seq Mouse BCR (with UMIs)は、イルミナ社次世代シーケンサーを用いたマウスB細胞受容体(BCR)のレパトア解析用ライブラリー調製キットです。本製品はSMARTテクノロジー(Switching Mechanism at 5’End of RNA Template)と5’RACE法の応用により、マウスBCRの全てのアイソタイプ(H鎖:IgA/D/E/G/M L鎖:IgK/L)の完全長V(D)J可変領域を得ることが可能です。
本製品は以下の表に示している様々なRNAサンプル(RIN > 7)から高品質なライブラリーを調製することができます。
サンプルタイプ | インプット量 |
マウス脾臓、骨髄、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ節由来のtotal RNA | 10 ng~1 μg |
マウス全血から抽出したRNA | 100 ng以上 |
PCRプライマーをH鎖、L鎖ごとに集約、酵素をプレミックスにしたことで、従来品(SMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kit)よりも使用するチューブ数と試薬を減らし、操作ステップを簡略化しています。
また本製品は分子バーコード(Unique Molecular Identifier : UMI)を付加することにより、PCR duplicatesやシーケンスエラーを取り除き、より正確で信頼性の高いNGS解析が可能です。さらに、Unique Dual Index Kit(別売り)と組み合わせることでインデックスホッピングによる他サンプルライブラリー由来のリードコンタミネーションを防止でき、最大384サンプルのマルチプレックス解析に対応可能です。
また、イルミナ社のどのシーケンサーにも対応しており、V(D)J領域の完全長シーケンスだけでなくCDR3領域のみに絞ったシーケンスも可能で、シーケンスコストを削減できます。
本製品のプロトコールは試薬自動分注装置にも適合しており、スループット性の向上や実験の小型化/自動化が期待できます。
図1. SMART-Seq Mouse BCR (with UMIs)を用いたライブラリー調製の概要
図2. BCR各アイソタイプを高感度に検出
マウス脾臓由来RNA 10 ng、100 ng、1,000 ngからBCR H鎖(IgA/D/G/E/M)とL鎖(IgK/L)のライブラリーを調製しました。どのアイソタイプにおいてもインプット量を増やすことで、一貫してクロノタイプカウントが増えることが示されました。
図3. シンプルなワークフローでより多くのアイソタイプ検出が可能
従来品(SMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kit:mBCRv1)とSMART-Seq Mouse BCR (with UMIs)(mBCRv2)を用いて10 ngのマウス脾臓由来RNAからライブラリーを調製し、イルミナ社のNextSeqでシーケンスしました。
本製品は従来品では検出できなかったアイソタイプも検出可能となり、IgG、IgK、IgLについては従来品よりも約7倍の感度を有することが示されました(IgEは通常のマウスサンプルではもともと発現が非常に低い)。
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図4. 他社製品との比較
SMART-Seq Mouse BCR (with UMIs)とN社のイムノプロファイリング用ライブラリー調製キットの感度を比較しました。ライブラリーは10 ngのマウス脾臓由来RNAからduplicateで調製し、イルミナ社MiSeqの600サイクルでシーケンスしました。
H鎖、L鎖それぞれのBCRクロノタイプカウントの総数を棒グラフで(パネルA)、BCRクロノタイプ数を表に示しました(パネルB)。
これらのデータから、他社のイムノプロファイリングキットよりも4倍近くクロノタイプを検出し、高い感度を持っていることが示されました。
A
図5. UMIにより微量のBCRクロノタイプも正確に同定
ハイブリドーマ細胞株(10×10
8細胞)から抽出したRNAの濃度を1、10、100 pgと変えて、10 ngのマウス胸腺由来RNAにスパイクインし、ライブラリー調製を行いました。データ解析においてライブラリーを300万リードにノーマライズし、UMIを用いたエラー補正後にクロノタイプカウントを測定した。パネルAではX軸、Y軸はともに対数変換した値をプロットしています。
スパイクインしたRNA量とクロノタイプ頻度が高い相関を示していることから、本製品が正確でバイアスの少ないクロノタイプ検出が可能であることが示されました。
図6. 異なるシーケンス長に対する柔軟性の高さ
10 ngのマウス胸腺由来RNAからライブラリーを調製し、完全長のV(D)J領域を2×300 bp(600サイクル)、CDR3領域のみを2×150 bp(300サイクル)の2パターンでシーケンスし、クロノタイプカウントを比較しました。
パネルA:TRAとTRBのクロノタイプカウントを棒グラフで示しており、V(D)J領域の完全長シーケンスとCDR3領域のみのシーケンスで同程度のクロノタイプカウントを得られました。
パネルB:それぞれのシーケンスセットアップで検出したクロノタイプカウントは75%オーバーラップしており、シーケンスリード長によらず一貫したデータを得られることが示されました。
これらのことからシーケンス長によらず安定したデータが得られ、シーケンスコスト削減も可能であることが示されました。
図7. テクニカルレプリケート間の高い再現性
BCRのH鎖、L鎖からそれぞれduplicateでライブラリーを調製し、クロノタイプの存在量をプロットしました。H鎖、L鎖ともにレプリケート間で高い相関係数を示し、本製品は優れた再現性を有することが示されました。
図8. 自動化装置への適合性
試薬自動分注装置MANTIS liquid handlerを用いて、本製品プロトコールに記載の試薬量(FV:full-volume)と半量(HV:half-volume)のそれぞれでライブラリーを調製し、マニュアル操作で実験した時のクロノタイプカウントと比較しました。
グラフから、MANTISを用いて半量の試薬でライブラリー調製した際もfull-volume調製時と同程度の感度でクロノタイプを検出でき、自動化装置への適合性が示されました。