リアルタイムPCRの原理

快適なリアルタイムRT-PCRのために

実験編

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Q1 1ステップリアルタイムRT-PCRと2ステップリアルタイムRT-PCRの使い分けは?
A1 1ステップリアルタイムRT-PCR法では逆転写反応に遺伝子特異的プライマーを用いるため、total RNA量が多くても効率良く反応できます。一方、逆転写反応にRandom 6mersを用いた2ステップリアルタイムRT-PCR法では、total RNA量が多すぎるとプライマーが不足し反応効率が低下してしまいます。Oligo dT Primerを用いると1ステップリアルタイムRT-PCRに近い結果が得られる場合もありますが、その際にはPCR増幅位置を3′末端付近に設定するよう注意が必要です。Random PrimerやOligo dT Primerなどの汎用プライマーを用いて逆転写反応によるcDNA 調製をまとめて行うことができる2ステップリアルタイムRT-PCR法はさまざまな遺伝子を検出したい場合には大変便利な手法ですが、特定遺伝子を高感度に検出したい場合には1ステップリアルタイムRT-PCR法が有利です。
従来、1ステップリアルタイムRT-PCR法は2ステップリアルタイムRT-PCR法に比べて非特異的増幅が生じやすいことが問題となっていましたが、最近では1ステップリアルタイムRT-PCR法も試薬の改良が進み、2ステップリアルタイムRT-PCR法と同様、十分に反応特異性が高い良好な反応が可能となっています。従って、「解析対象の遺伝子数が多い場合には2ステップ、サンプル数が多い場合には1ステップ」というように、実験目的に応じてリアルタイムRT-PCRプロトコールを自由に選択することができます。多検体のハイスループット解析や低発現遺伝子の高感度検出には1ステップリアルタイムRT-PCRをご活用ください。
Q2 total RNAサンプルに混入したゲノムDNAに対する対策は?
A2
 [対策1]
ゲノム由来の増幅が起こらないようにプライマーを設計します。まず、目的遺伝子のゲノム構造を調べ、サイズの大きなイントロンを選びます。そして、その前後のエキソンにforward primerとreverse primerをそれぞれ設計します。イントロンサイズが十分に大きければゲノム由来の増幅は起こりません。イントロンサイズが小さい場合にはゲノム由来の増幅も起こりますが、増幅サイズの違いによる融解温度の差からゲノム由来の増幅を見分けることができます。
[対策2]
シングルエキソンの遺伝子やゲノム構造が不明な場合には、あらかじめ調製したtotal RNAをDNase I処理して、ゲノムDNA を除去しておきます。
Q3 リアルタイムRT-PCRで遺伝子発現解析を行う場合、鋳型RNAの補正にハウスキーピング遺伝子をよく用いるが、適切なハウスキーピング遺伝子の選び方は?
A3 正確な解析結果を得るには、その実験系で発現量が変動しないハウスキーピング遺伝子を選んで用いることが重要です。従来、ハウスキーピング遺伝子としてはGAPDHやβ-アクチンがよく用いられてきましたが、近年、これらの遺伝子も実験条件によっては変動するケースがあることが報告されています。1種類のハウスキーピング遺伝子では正確な補正を行うには不十分であり、複数のハウスキーピング遺伝子を用いる補正方法が現在もっとも信頼性が高い方法と考えられています。この方法では、いくつかのハウスキーピング遺伝子の発現量を測定し、その中で変動が小さいと思われるものを選択して使用します。最適な補正用遺伝子を選択するソフトウェアも開発されており、ダウンロードして利用できます(geNorm、BestKeeperなど)。マイクロアレイによる発現プロファイルのデータがある場合には、その結果から類推することも可能です。

【参考文献】
Accurate normalization of real-time quantitative RT-PCR data by geometric averaging of multiple internal control genes. Vandesompele J, et al.,(2002)Genome Biol.; 3(7): RESEARCH0034.1-11
Q4 検量線作成用の標準サンプルには、何を用いるのがよいか?
A4 できるだけ実際のサンプルに近い形状のものが標準サンプルとして適しています。遺伝子発現解析なら目的遺伝子が発現しているtotal RNA から逆転写反応により調製したcDNA を、ゲノムDNA の解析ならゲノムDNA を使用します。増幅領域の塩基配列が同じでも鋳型全体の形状が大きく異なると、PCR 増幅効率も異なる場合があります(ゲノムDNA とプラスミドDNA など)。
Q5 リアルタイムRT-PCRを行うときの検量線作成用標準サンプルは、RNAとcDNAのどちらが良いか?
A5 リアルタイムRT-PCRで検量線を作成する場合、(1) RNAを段階希釈して逆転写反応およびリアルタイムPCRを行い検量線を作成する方法、(2) 逆転写反応によって得られたcDNAを段階希釈してリアルタイムPCRを行い作成する方法の2 通りが考えられます。これらは評価している内容が異なりますので、実験系により適切な方法を選択します。

[絶対定量の場合]
RNAの絶対定量では、逆転写効率を考慮する必要があるため、RNAを段階希釈して検量線の作成に用います。この場合、cDNAの希釈物は適していません。

[相対定量の場合]
相対定量では、ハウスキーピング遺伝子などリファレンス遺伝子の測定により逆転写効率の誤差を補正できるので、cDNAを段階希釈して検量線作成に使用する方法をお勧めします。RNA希釈物による検量線には、PCR増幅効率 のほかにRNA量依存的な逆転写効率の差も反映され、実際とは異なったPCR増幅効率を算出してしまう危険性があるためです。
Q6 PCR増幅産物の確認方法は?
A6 使用実績のあるプライマーでは、以前の融解曲線分析結果(Tm値)が参考になります。以前と同じTm値であれば以前と同じPCR増幅産物が得られていると考えてほぼ間違いないでしょう。ただし、同一のPCR増幅産物であれば同一のTm値を示しますが、逆に、Tm値が同じだからといって同一のPCR増幅産物であるとは限りません。初めて使用するプライマーでは、一度、リアルタイムPCRを行った増幅産物を電気泳動して目的の増幅サイズであることを確認してください。
Q7 N数はいくつ取れば良いか(実験誤差について)
A7 必要なN数は、実験系により異なります。基本的には、実験全体を通して実験誤差が大きいと予想されるステップで多めにN数を取るようにします。RT-PCR による遺伝子発現解析においては、もとの生物試料を複数用意したりRNA抽出を複数回行ったりすることが誤差の把握に役立つでしょう。リアルタイムPCRに限って言えば、鋳型量が少ないとき、つまりPCRの後半で検出されるような場合に誤差が大きくなりなすので、そのような反応について多めにN数を取るようにします。
Q8 リアルタイムPCRの検出感度は?
A8 リアルタイムPCRの検出感度は、使用する試薬やプライマーなどの実験条件によって異なります。適切な系では、少なくとも10コピー前後の鋳型を検出できることが確認されています。

解析編

Q9 Ct値の算出法には2通りあると聞いたが?
A9 Ct値の算出には、次の2通りの方法があります。Crossing Point法は、増幅曲線と閾値(Threshold)の交点からCt値を求める方法です。2nd Derivative Maximum法は、増幅曲線の二次導関数(2 回微分した曲線)が最大となる位置をCt値とする方法です。後者の方法では、閾値の設定によりCt値が変動することがなく、装置の検出誤差の影響も受けませんので、精度の高い解析が可能です。装置によってはCrossing Point法、2nd Derivative Maximum法の選択ができないものもありますのでご注意ください。
Q10 絶対定量と相対定量の違いは?
A10 絶対定量では、コピー数が既知の標準サンプルを用いて絶対数(コピー数)を定量します。それに対して相対定量では、サンプル間で量を相対的に比較します。例えば、コントロールサンプルに対して未知サンプルでは2倍に増えた、あるいは1/3に減ったといった解析を行います。相対定量では、定量目的遺伝子の他に補正のためのリファレンス遺伝子(ハウスキーピング遺伝子など)を同時に測定します。

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