COS-TPC法では、相同組換えにより組換えアデノウイルスの作製を行うため、E1遺伝子をもつRCA(Replication Competent Adenovirus)が混入してくることがあります。また、最初はRCAの混入していないウイルスサンプルであったとしても、293細胞での継代を繰り返すことによりE1遺伝子を獲得することがあります
18),19)。そのため、RCAのチェックを行うことをお勧めします。
RCAの検出は、HeLa細胞やA549細胞などに感染させた後、しばらく維持し、これらの細胞に変性が認められないことで確認を行う方法が一般的です。ここでは、斉藤博士らが考案されたPCR法によるRCAの検出方法をご紹介します。この方法を用いれば、短期間で高感度に検出を行うことが可能です。
PCRによるRCA検出方法は、文献18),20),21)などにも報告されています。
必要な器具・試薬
PCR法によるRCAチェックには、さらに以下の器具・試薬が必要です。
・ PCR Thermal Cycler
TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Gradient(製品コード TP600)など
・
TaKaRa Taq(製品コード R001A)
・ dNTP mixture (製品コード R001Aに含まれている
・ 10×PCR Buffer (製品コード R001Aに含まれている)
・ Primer Set
例1: E1Aの開始コドンから415 bpを増幅するプライマーセット
sense: 5’-ATGAGACATATTATCTGCCACGGAGGTGTTATTAC-3’ (Adenovirus type5 560-594 bp)
antisense: 5’-CCTCTTCATCCTCGTCGTCACTGGGTGGAAAGCCA-3’ (Adenovirus type5 974-940 bp)
例2 : E1Aの開始コドンから240 bpを増幅するプライマーセット
sense: 5’-ATGAGACATATTATCTGCCAC-3’ (Adenovirus type5 560-580 bp)
antisense: 5’-GTAAGTCAATCCCTTCCTGCAC-3’ (Adenovirus type5 800-779 bp)
- 24ウェルプレートに、80~90%コンフルエントになるように、HeLa細胞を準備する。
- 培地を吸引除去する。
- 組換えウイルスサンプル10 μl(精製ウイルスの場合には1 μl)と5%FCS-DMEM 0.1 mlを加える。
- プレートをシーソーのように数回、ゆっくりと振とうさせ、ウイルス液をすべての細胞にいきわたらせ感染を行う。この操作を15~20分ごとに3~4回行う。この間、細胞はCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)においておく。
- 1時間の感染後、5%FCS-DMEM 0.4 mlを加える。
- 3日間培養する。* 3日後、細胞に変性がみられないことを顕微鏡で観察し確認する。
- 培地を吸引除去しPBS 1 mlで3回洗浄する。
* 十分な洗浄が必要です。このステップでの洗浄が不十分であると、未精製ウイルスサンプルの場合は、特にサンプル溶液中に含まれる293細胞由来のE1遺伝子を除くことができず、得られる結果の判定が難しくなります。
- HeLa細胞から以下の方法で全DNAを抽出しPCRによりE1遺伝子を検出することでRCAを検出します。PBSを吸引除去し、HeLa細胞に下記の溶液を加え、全量を400 μlとする。
10×TNE Buffer |
40 μl |
Proteinase K (20mg/ml) |
4 μl |
滅菌精製水 |
up to 400 μl |
- 滅菌チューブに回収し、ボルテックスミキサーで十分に懸濁する。
- 10%SDS 4 μlを加える。ボルテックスミキサーでさらに十分に懸濁する。
- 50℃で1時間インキュベートする。
- フェノール・クロロホルム抽出を2回行った後、クロロホルム抽出を2回行う。
* このときボルテックスミキサーで十分に攪拌します。
- エタノール沈殿後、20 μg/ml RNase Aを含むTE Buffer 50 μlに溶解する。
* エタノール沈殿後、沈殿を完全に乾かしてしまうと溶けにくくなります。
- PCR反応液を以下のように調製する。
DNA サンプル* |
2 μl |
TaKaRa Taq (5 U/μl) |
0.5 μl |
dNTP mixture (各2.5 mM) |
4 μl |
10×PCR buffer (Mg2+ plus) |
2 μl |
sense primer (20 pmol/μl)
|
0.5 μl |
antisense primer (20 pmol/μl)
|
0.5 μl |
滅菌精製水
|
up to 50 μl
|
※ DNAサンプル: 13.で調製したDNA溶液
* ネガティブコントロール
・ DNAサンプルの代わりに、滅菌精製水2 μlを加えた反応液
・ DNAサンプルの代わりに、ウイルス感染を行っていないHeLa細胞から、7.-13.と同様にDNA抽出操作を行い回収したDNA sample 2 μlを加えた反応液
* ポジティブコントロール
・ DNAサンプルの代わりに、ウイルス感染を行っていない293細胞から、7.-13.と同様にDNA抽出操作を行い回収したDNA sample 2 μlを加えた反応液
- 以下のPCR反応を行う。
94℃、30 sec. 55℃、30 sec.
72℃、30 sec.
|
25 cycles (primer pair 例1) or 30 cycles (primer pair 例2) |
* 30 cycles 以上は行わないで下さい。バックグラウンドが高くなり検出が困難になります。
- PCR産物 7 μlをアガロースゲル電気泳動し、増幅産物のサイズを確認する。
* 相当のバンドが存在すれば、RCA混入の可能性が高いと判断できます。