1.大規模実験を行う前に予備実験を行う
シングルセルRNA-seqのワークフローに精通している人でも、異なるタイプのサンプルを使用する場合は実験を最適化する必要があるかもしれません。予備実験を行うことにより問題を早期に特定し、大規模な実験で試薬や時間を無駄にすることを回避するのに役立ちます。予備実験では通常、少数のサンプル、ポジティブコントロール、およびネガティブコントロールを行います。コントロール実験の結果、実験上のテクニカルな問題を見つけられる可能性があります。(詳細はTips2参照)
コントロール実験が予想通りの結果が得られた場合、cDNA収量とサイズ分布の結果から、実験サンプルを用いた場合に最高の性能を引き出すことができます。細胞の種類によってRNAの含有量は大きく異なるため(表1)、ライブラリー調製に最適な収量を得るにはPCRサイクル数を調整する必要があります。
表1.代表的な細胞の1細胞あたりのRNA量
細胞の種類 | 1細胞あたりのRNA量 |
PBMC | 1 pg |
Jurkat細胞 | 5 pg |
HeLa細胞 | 5 pg |
K562細胞 | 10 pg |
2細胞胚 | 500 pg |
2.ポジティブコントロールとネガティブコントロールを常に行う
シングルセルRNA-seqを初めて行う、または何度も行ったことがあるかにかかわらず、コントロール実験はトラブルシューティングに非常に役立ちます。タカラバイオのすべてNGSキットにはポジティブコントロール用のRNAサンプルが含まれており、最適のポジティブコントロールは実験サンプルと同じRNA量を用いることです。(例:1細胞の場合は10 pgのRNA、または表1を参照)。同様に、最適のネガティブコントロールは実験サンプルが処理されたものと同じ溶液です(例:mock FACSサンプルバッファー)。初めて行う場合は、ポジティブコントロールでも低いcDNA収量となるかもしれませんので、プロトコールに慣れるまでは、2種類のポジティブコントロール(10 pgと100 pgなど)を行うことをお勧めします。また、ネガティブコントロールのバックグラウンドが高いこともありますが、これは重大な問題ですので、バックグラウンドを減らす方法についてはTips4および5を参照してください。
3.細胞が適切なバッファーに懸濁されている、または適切なバッファーにソーティングされていることを確認
シングルセルRNA-seqにおける逆転写反応条件は、非常に少量のRNAから最大の収量が得られるように適切に調整されています。細胞から持ち込まれる培地、DEPC、RNase、マグネシウム、カルシウム、またはEDTAは逆転写反応を阻害し、cDNAの収量や感度を低下させます。特にトリプシンなどの酵素処理を行った場合は、細胞懸濁液をEDTA、Mg
2+、およびCa
2+を含まない1×PBSで洗浄して再懸濁することをお勧めします。セルソーターを使用して1細胞を単離する場合は、細胞を懸濁状態に維持する、EDTA、Mg
2+、およびCa
2+を含まないBD FACS Pre-Sort Bufferのようなバッファーに細胞を懸濁することもできます。可能であれば、シース液としてEDTA、Mg
2+、およびCa
2+を含まない1×PBSを使用することをお勧めしますが、低濃度のEDTAを含む他のシース液も逆転写反応に影響を与える可能性は低いです。
ソーティングされる細胞を受けるバッファーと液量については、プロトコールによって推奨が異なりますが、いずれのプロトコールにおいても、RNase inhibitorを加えて新たに調製したLysis bufferを使用することをお勧めします。タカラバイオのシングルセルRNA-seqキットの推奨については表2をご参照ください。実験上これらのパラメータを変更する必要がある場合は、予備実験によって変更の影響を確認する必要があります。例えば、10 pgのコントロールRNAからcDNAを作製して、収量とサイズ分布を確認しますが、その際に、細胞と一緒に持込まれる可能性のある量の培地またはバッファーが有る場合と無い場合で比較します。
表2.SMART-Seq v4、SMART-Seq HT、およびSMART-Seq Strandedキット用の推奨および代替コレクションバッファー
推奨コレクションバッファーの作製方法は各キットのユーザーマニュアルに記載されてます。代替バッファーへのソーティングはキットの性能に影響を与える可能性があり、推奨される逆転写反応のマスターミックスの変更が必要になることに注意してください。
4.手早い作業
細胞がプレートのウェルまたはチューブにソーティングされた後、100×gで遠心し、そのまま直ぐに次の工程に進むか、ドライアイスで急速冷凍して、次の工程に進むまで-80℃で保存します。細胞回収、急速凍結、およびcDNA合成ステップ間の時間を最小限に抑えることは、RNAの分解およびトランスクリプトーム解析における望ましくない変動を減少させます。プロトコールを通して、処理時間を短縮することでサンプルの汚染や分解を抑えることができます。
5.優れたRNA-seq技術を実施
超微量サンプルを扱う実験は実験の過程でサンプルを汚染したり損失しやすいので注意が必要です。作業中は常に清潔な白衣、袖カバー、および手袋を着用してください。プロトコールのステップ間で手袋を交換することをお勧めします。PCR前後のワークスペースを別々にすることもお勧めです。理想的には、PCR前のワークスペースは空気の流れが良いクリーンルーム内で行うことが望ましいです。これにより、アンプリコンや環境汚染のリスクが大幅に減少します。RNaseやDNaseを含まず、RNAやDNAの吸着が少ないプラスチック器具(ピペットチップ、プレート/チューブなど)を使用すると、サンプルの損失が少なくなります。ビーズによるクリーンアップステップはサンプル損失のもう1つの要因となります。大量のサンプルを失う可能性があるため、上清を除去する前にビーズが完全に分離されていることを確認してください。強力なマグネットスタンドを使用するとビーズの分離とスピードが向上します。エタノール洗浄後のビーズの乾燥および湿潤時間は必ずプロトコールに従ってください。
タカラバイオはシングルセルRNA-seq分野のエキスパートであり、このテクノロジーを長年にわたり先駆的かつ体系的に進化させてきました。オリゴdTやランダムプライミング法を含むさまざまなシングルセルRNA-seqキットを提供しています。これらのTipsはシングルセルRNA-seqでの問題を最小限に抑えることを目的としていますが、キットに関する具体的な質問や実験上の問題が発生した場合は、弊社のテクニカルサポートまでお問い合わせください。
シングルセルRNA-seqの参考文献
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Haque, A., Engel, J., Teichmann, S. A. & Lönnberg, Genome Med. (2017) 9, 75.
The Technology and Biology of Single-Cell RNA Sequencing. Mol.
Kolodziejczyk, A. A., Kim, J. K., Svensson, V., Marioni, J. C. & Teichmann, S. A. Cell (2015) 58, 610-620.
Single-Cell Transcriptional Analysis.
Wu, A. R., Wang, J., Streets, A. M. & Huang, Y. Annu. Rev. Anal. Chem. (2017) 10, 439-462.