Viable Legionella Selection Kit for PCR Ver.2.0

実験の進め方について

1.前処理(EMA処理)条件の検討

(1)はじめに
下記に示したレジオネラ属菌の標準的なEMA処理条件は、予めレジオネラ属菌に対して最適化したものであるが、検体に含まれる夾雑物の影響により、EMA処理の効果が変化することがある。そのような可能性が考えられる場合には、夾雑物存在下でEMA処理の条件検討を行う。具体的には、純培養菌の生菌と死菌に夾雑物を混合したものを準備し、下記条件をもとにEMA処理の時間や回数を変えて、その効果を確認する。

[死菌を用いての確認]
死菌抑制効果を確認する。
夾雑物を加えた死菌サンプルを用いて、最適な死菌抑制効果が得られるEMA処理条件を検討する。またその条件でEMA処理を行った際に、どの菌数まで死菌抑制効果があるかを確認する。

[生菌を用いての確認]
EMA処理の生菌への影響を確認する。
夾雑物を加えた生菌サンプルを用いて、EMA処理あり/なしの結果を比較し、検出感度に影響を与えないEMA処理条件を検討する。

◆レジオネラ属菌の標準的なEMA 処理条件
光照射装置[LED Crosslinker 12(製品コード EM200)、LED Crosslinker]を使用する場合
1. Solution B-leg(EP2)をDilution Bufferで2倍に希釈する。(用時調製)
2. 1.5 mlチューブに調製したサンプル40 μlを準備する。
3. Solution A-leg(EP2)10 μlを添加する。
4. 1. で希釈したSolution B-leg(EP2)5 μlを添加し、混合後、軽くスピンダウンする。
5. 遮光して室温で15分間静置する。
6. 光照射装置にセットし、15分間光照射する。
7. サンプルをスピンダウンし、95℃、2分間ヒートブロックで加熱する。[加熱殺菌]
短時間の緩やかなボルテックスもしくは数回のタッピングで混合する。

(注1)操作方法の全体は、操作方法を確認してください。
(注2)EMA処理条件の検討でEMA処理を複数回行う場合は、4.~6. の工程を繰り返して行ってください。その場合、各回の処理で5分間光照射を行い、最後の回のみ15分間光照射を行ってください。

(2)条件検討の流れ
純培養菌の生菌と死菌に夾雑物を加えたサンプルを準備し、EMA処理回数(1、2、3回)の検討を行う。EMA処理を複数回行う場合は、各回の処理で5分間光照射を行い、最後の回のみ15分間光照射を行う。
まずはEMA処理1回で試してみて、死菌の抑制効果が不十分な場合に、EMA処理2回、3回の検討を行うという手順でも良い。


図2.条件検討のフロー

(3)結果の解析
EMA処理なしの結果と各種条件でEMA処理を行った結果を比較して、生菌への影響と死菌抑制効果を確認する。
図3は、培養したレジオネラ属菌を生理食塩水に懸濁したものを生菌サンプルとし、その懸濁液の一部を95℃、2分間熱処理したものを死菌サンプルとして、EMA処理を1回実施した場合の実験例である。左図にはCt値を、右図にはEMA処理なしとありのCt値の差(ΔCt値)を示している。

[生菌への影響]
生菌を用いた際のEMA処理ありとなしのCt値の差(ΔCt値)がEMA処理による生菌の検出感度の低下を表す。適切なEMA処理条件では、ΔCt値は1.5以下となることが多く、その値が小さい程、生菌への影響が小さいEMA処理条件である。EMAは死菌由来DNAを効率よく修飾するが、菌種や菌数、処理条件によっては生菌にも若干の影響を与えることが知られている。
図3の実験例では、ΔCt値がいずれも0に近い値となっている。

[死菌抑制効果]
死菌を用いた際のEMA処理ありとなしのCt値の差(ΔCt値)が死菌抑制効果を表す。適切なEMA処理条件では、ΔCt値は10.0以上となることが多く、その値が大きい程、効果的に死菌を抑制できるEMA処理条件である。結果を正しく解釈するために、どの程度まで死菌抑制効果があるかをあらかじめ確認しておくことが重要である。
図3 の実験例ではΔCt値が15程度であったことから、10-4~10-5程度の死菌抑制効果があると推測される。

[EMA 処理条件の選定]
生菌と死菌の結果を踏まえて、生菌への影響が小さく、死菌抑制効果が充分なEMA処理条件を選択する。 図3の実験例では、生菌への影響が小さく、死菌抑制効果も充分であることから、EMA処理1回で充分と考えられる。

【注意】 夾雑物によりEMA処理効果に影響が生じると推測される場合には、EMA処理回数の検討を行う。

  1. 生菌への影響
    【方法】生菌サンプルを段階希釈して、3.2×105~3.2個をEMA処理し、EMA処理なしの場合と比較することにより、生菌への影響を確認した。

  2. 死菌抑制効果
    【方法】死菌サンプルを段階希釈して、3.2×107、3.2×105個をEMA処理し、EMA処理なしの場合と比較することにより、死菌抑制効果を確認した。
図3.生菌への影響および死菌抑制効果

2.実検体の測定

(1)はじめに
「1. 前処理(EMA処理)条件の検討」で決めた条件で実検体のEMA処理を行う。この場合にも、EMA処理なしとEMA処理ありの比較を行う。EMA処理なしの結果は生菌と死菌を合わせた総菌数を、EMA処理ありの結果は主に生菌数を表すので、これらの結果から生菌および死菌の存在を推定することができる。なお、EMA処理を行った検体に関しては、別途Control Test Kitを用いてEMA処理効果の確認を行う。

(2)実験の流れ
EMA処理に供する菌数は、その処理条件で抑制可能な死菌数以下になるようにする。
また、検体に含まれる夾雑物がEMA処理に影響を及ぼすことが明らかな場合は、必要に応じて検体を希釈する。


図4.実検体での実験フロー

(3)結果の解析
同一検体由来のEMA処理あり/なしの結果を比較して、生菌と死菌の存在の有無を下表の通り判断する(陽性コントロール、陰性コントロール、インターナルコントロールが妥当な結果を示すことを前提とする)。
 前処理(EMA処理)あり
検出不検出
前処理
(EMA 処理)なし
検出 生菌 +/-*3
死菌 +/-
生菌 -*2
死菌 +
不検出 生菌 -*1
死菌 -

*1 パターン1
EMA処理ありサンプルで不検出 → 生菌由来DNAが検出限界以下
EMA処理なしサンプルで不検出 → 死菌由来DNAも検出限界以下
⇒ 検体サンプル中のレジオネラ属菌が検出限界以下である。

*2 パターン2
EMA処理ありサンプルで不検出 → 生菌由来DNAが検出限界以下
EMA処理なしサンプルで検出 → 死菌由来DNAはEMA 処理で完全に修飾済み
⇒ 検体サンプル中のレジオネラ属菌の生菌が検出限界以下である。

*3 パターン3
EMA処理ありサンプルで検出
EMA処理なしサンプルで検出

a.EMA処理なしの定量結果(総菌数)が抑制可能な死菌最大数より少ない場合;
EMA処理ありの定量結果は、生菌数を表す。
b.EMA処理なしの定量結果(総菌数)が抑制可能な死菌最大数より多い場合;
EMA処理ありの定量結果には、生菌数の他、抑制しきれなかった死菌数が含まれる可能性がある。EMA処理に供する菌数が抑制可能な死菌最大数を下回るように菌数を調整して再試する。


図5.パターン3の結果の解釈について
a.総菌数が抑制可能な死菌数より少ない場合
EMA 処理後、生菌が検出される。
b-1.総菌数が抑制可能な死菌数より多く、死菌数は抑制可能な死菌数より少なかった場合
EMA 処理後、生菌が検出される。
b-2.総菌数が抑制可能な死菌数より多く、死菌数は抑制可能な死菌数より多かった場合
EMA 処理後、生菌とEMA処理で抑制しきれなかった死菌が検出される。

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