細胞製剤製造

RetroNectin®を用いたNK細胞へのCAR遺伝子導入と機能評価

ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫において中心的な役割を持った細胞傷害性リンパ球で、これまでも他家移植に利用されてきました。また、移植片対宿主病(GVHD)を誘導せず、サイトカイン放出症候群や神経障害を起こすリスクが低いため、高い安全性が期待されます。このことから、自然免疫機能と腫瘍抗原特異的な細胞傷害性を強化したキメラ抗原受容体発現NK細胞(CAR-NK)としての利用が期待されています。
タカラバイオでは、独自の手法(RetroNectin共刺激による高純度NK細胞培養法)により調製したNK細胞に、RetroNectinを用いて遺伝子導入を行いました。その結果、レトロウイルス(RV)ベクター、レンチウイルス(LV)ベクターの両方で遺伝子導入効率が向上し、特にNK細胞に感染しにくいと報告されているLVベクターによる遺伝子導入効率を飛躍的に増加させることができました。遺伝子導入効率および特性解析の結果から、CAR-NK細胞製造において有効的な手段となることを確認しました。
本研究成果については、第28回遺伝子細胞治療学会学術集会(JSGCT 2022)において発表いたしました。

【実験結果】

  1. 遺伝子導入効率の比較
    高純度NK細胞に3つの方法(図A)を用いてRVまたはLVによる遺伝子導入を行い、遺伝子導入効率をフローサイトメトリー(FCM)解析によって評価した。
    FCM解析の結果から、RN spinoculation法は、他の方法と比べて遺伝子導入効率が高かった(図B、図C)。特に、NK細胞に感染しにくいと報告されているLVによる遺伝子導入効率が飛躍的に向上した(図C)。

    A)感染方法
    感染方法
    B)RV遺伝子導入効率(%)
    RV遺伝子導入効率
    C)LV遺伝子導入効率(%)
    LV遺伝子導入効率
  2. CAR-NK細胞の特性解析
    2種類の異なるシグナルドメイン(28ζ、4-1BBζ)を持つ抗CD19 CAR-NK細胞を作製し、特性解析を実施した。

    2a. 細胞傷害活性測定
    K-562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病由来)、CD19陽性NALM-6細胞(急性リンパ性白血病由来)およびCD19陽性Daudi細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来)に対する抗CD19 CAR-NK細胞の細胞傷害活性を調べた。コントロールには、非遺伝子導入NK細胞(NGMC)を使用した。NGMCではCD19陽性細胞に対する細胞傷害活性は低いが、抗CD19 CAR-NK細胞はCD19陽性細胞に対して高い細胞傷害活性を示した。また、NK細胞感受性細胞であるK-562細胞に対し、抗CD19 CAR-NK細胞はNGMCと同等の細胞傷害活性を示した。

    実験スケジュール
    実験スケジュール

    2b. 連続抗原刺激に対する細胞傷害活性の維持
    抗CD19 CAR-NK細胞にCD19陽性NALM-6細胞を連続的に添加し、細胞傷害活性の持続性を比較した。NGMCでは、NALM-6細胞の増殖が認められたが、抗CD19 CAR-NK細胞ではNALM-6細胞の増殖が顕著に抑制された。また、NALM-6細胞の連続添加に対して、4-1BBζシグナル抗CD19 CAR-NK細胞は、5日目以降も細胞傷害活性の維持を示し、28ζよりも細胞傷害活性が長期間持続することが示された。

    実験スケジュール
    実験スケジュール

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