製品説明
Living Colors DsRed-Monomerは、珊瑚礁に生息する造礁サンゴの一種(学名Discosoma)に由来する赤色蛍光タンパク質を遺伝子組換え技術を用いて改変した新しい単量体赤色蛍光タンパク質で、フローサイトメトリーや蛍光顕微鏡を用いた多重蛍光解析に最適である。DsRedタンパク質の初期の各種バリアントは、四量体を形成するため融合タンパク質タグとしての有用度は低いものであった。単量体形成バリアントであるDsRed-Monomerは、元のタンパク質のアミノ酸のうち45個を別のアミノ酸に置換したものだが、単量体としての有用性に加え、DsRed-Expressタンパク質と類似するさまざまな特性を保持している。すなわち、極めて安定で従来の観察時間を超える長時間の蛍光観察ができ、蛍光の発色は短時間で最大強度に達しトランスフェクションの12時間後から検出できる。
DsRed-Monomerタンパク質が非常に多岐にわたるさまざまな機能を持ったタンパク質と融合タンパク質を形成し、タグとして機能することはすでに確認されている。さらに哺乳類細胞と適合性がよく、トランスフェクションにより安定した細胞株が得られている。また、Clontechの他のLiving Colors蛍光タンパク質と同様、外部から特別な補因子や酵素基質を補うことなく細胞内で検出可能であるため、生きた細胞内での種々の生物反応を研究する非侵襲的なツールとして非常に有用である(1~3)。
真の単量体
DsRed-Monomerタンパク質が単量体として機能することは、複数の独立した実験系で確認されている。組換え体のDsRed-Monomerタンパク質をFPLCゲル濾過クロマトグラフィーで分画分析すると、分子量28 kDaに相当する位置に単一ピークとして現れる(図1 パネルA)。また、溶出のパターンが元の分子量よりも高い分子量を持つ同タンパク質関連物質の存在を示さないことから、本タンパク質が真に単量体として存在していることが強く示唆される。一方、組換え体DsRed-Expressタンパク質は四量体構造をとるため、DsRed-Monomerタンパク質より早く溶出される。さらに、SDS-PAGEを用いた解析結果でも、EGFPやAcGFPのような緑色蛍光タンパク質(変異型)と同様の単量体の溶出パターンを示す(図1 パネルB)。これらの結果から、DsRed-Monomerタンパク質はアミノ酸組成からの計算値26.8 kDa相当の分子量をもつ単量体として存在していると考えられる。
図1. DsRed-Monomerが単量体であることの確認
パネルA:組換え体のDsRed-ExpressとDsRed-Monomerタンパク質(100 μg)をFPLCゲル濾過クロマトグラフィーで分画し、280 nmにおける吸光度(A280)と557 nmにおける吸光度(A557)を同時に測定した。DsRed-Monomerタンパク質は保持時間39分、分子量にして28 kDaに相当する位置に溶出された(分子量の計算値は26.8 kDa)。DsRed-Expressは四量体タンパク質で、カラム保持時間はより短い33分、分子量にして89 kDaに相当する。
パネルB:SDS-PAGEの結果を示す。オリゴマー状態を取るタンパク質の多くは、その試料を4℃で保存し、泳動前に通常行う煮沸処理を行わなければ、SDS-PAGEの泳動中もオリゴマー状態をとり続ける。ここでは、煮沸処理(変性条件)、非煮沸処理(非変性条件)それぞれの条件下で組換え体のDsRed-Expressタンパク質およびDsRed-Monomerタンパク質(7.5 μg)をSDS-PAGE(12%アクリルアミドゲル)で分析した。DsRed-Monomerタンパク質とEGFPタンパク質(変異型緑色蛍光タンパク質)は変性・非変性条件下ともに30 kDa近辺の位置にシングルバンドとして泳動され、単量体であることが示された。一方、DsRed-Expressタンパク質の場合、非変性条件下では変性条件下と比較して非常に大きな分子量の位置に泳動され、四量体形成が示された。 スペクトル特性
単量体のDsRed-Monomerは、DsRed-Expressなど従来のDsRedバリアントが共通してもつ重要なスペクトル特性を保持している。DsRed-Monomerタンパク質のスペクトル特性は、励起極大波長556 nm、蛍光極大波長586 nmであり(表1、図2)、Clontechの他のDsRedタンパク質バリアントとほぼ同一であるため、DsRed-Expressなどと同じフィルターセットを用いて検出が行える。例えば、Chroma Technology Corporation社から発売されている、オーダーメイドで調製されるフィルターセットなども使用可能である(表2)。DsRed-Monomerタンパク質は、DsRed-Expressタンパク質よりわずかに蛍光強度が小さい面はある(表1、図3)が、蛍光顕微鏡やフローサイトメトリーなどの用途には極めて適している(図4~6)。また、Clontechの他の赤色蛍光タンパク質と同様に、他の色の蛍光タンパク質と二重蛍光標識する場合にも真価を発揮する。
表1. DsRed-Monomerタンパク質のスペクトル特性
蛍光タンパク質 波長(nm) | 励起極大 波長(nm) | 蛍光極大 波長(nm) | 検出までに必要な 時間(hr) | 相対的な 蛍光強度 | 四次 構造 | レポーター としての 有用性 | 融合タンパク質 としての 有用性 |
DsRed-Monomer | 556 | 586 | 12 | 明るい | 単量体 | ++ | ++++ |
DsRed2 | 563 | 582 | 24 | 極めて明るい | 四量体 | +++ | ++ |
DsRed-Express | 557 | 579 | 8~12 | 極めて明るい | 四量体 | ++++ | +++ |
注記: ++++ = 非常に優れている +++ = 優れている ++ = 使用可能
図2. 単量体のDsRed-monomerおよびAcGFP1タンパク質の励起・蛍光スペクトル
表2. DsRed-Monomerを検出するフィルターセット
種類 | 特徴 |
DsRed-Monomer/DsRed2/DsRed-Express | Exciter HQ545/30x |
Chroma No.41002c | Dichroic Q570LP Emitter HQ620/60m |
DsRed-Monomer/DsRed2/DsRed-Express | Exciter HQ540/40x |
Chroma No.42005 | Dichroic Q570LP Emitter HQ600/50m |
図3. DsRed-Monomer蛍光強度の経時的変化
HEK 293細胞にDsRed-MonomerとDsRed-Expressをトランスフェクトし、568 nmのレーザーを使用したフローサイトメトリーで経時的に蛍光強度を測定した。フローサイトメトリーの解析では、DsRed-Monomerタンパク質の蛍光強度はDsRed-Expressと比較してやや劣るが、蛍光顕微鏡では非常に明るく見える。両者はほとんど同じ時間で最大蛍光強度に達している。
HEK 293細胞にDsRed-Monomerをトランスフェクトし、568 nmのレーザーを使用したフローサイトメトリーで24時間後に検出した。パネルA:pDsRed-Monomer-N1 パネルB:pDsRed-Express-N1 優れた融合タンパク質タグ
目的タンパク質を蛍光タンパク質でタグ標識する際には、タグとして用いる蛍光タンパク質が目的タンパク質の生物学的な機能に影響を与えないことが重要である。蛍光タンパク質タグがオリゴマーを形成する性質が強い場合、標識されるタンパク質の機能が変化する、あるいは機能を失う危険性が高くなる。DsRed-Monomerタンパク質は真の単量体形成能を示すため、赤色蛍光タンパク質タグとしての使用に極めて適している。哺乳類細胞で発現させた場合、本タンパク質は高い可溶性を示し、細胞質中に均一に分布し、凝集は検出できなかった(図5)。
DsRed-Monomerタンパク質を融合タンパク質タグとしてさまざまな種類の標的タンパク質と融合し、その細胞内分布を検討した結果、タグとしての有用性が改めて確認された(図6)。アクチンとの融合タンパク質やゴルジ体へ移行するタンパク質との融合タンパク質など、ここで検討されたすべてのタンパク質とDsRed-Monomerとの融合タンパク質は、それぞれ本来の細胞内局在場所に正しく位置していることが確認された。同様の検討を四量体DsRedタンパク質で行うと、局在場所が異なることが明らかとなっている。アクチンの場合、DsRed-Monomerタンパク質との融合タンパク質は、アクチンフィラメントの中に正しく取り込まれて、細胞内骨格のネットワーク、ラッフリングしている細胞周辺部分、そして細胞偽足に存在していることが確認された。これらのデータから、DsRed-Monomerタンパク質は、融合タンパク質タグとして極めて優れた性質を持っていることが示された。
図5. 単量体DsRedタンパク質は可溶化状態で動物細胞内に発現
HeLa細胞にpDsRed-Monomer-N1をトランスフェクトし、24時間後4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。DsRed-Monomerタンパク質の蛍光は、細胞内全体に一様に広がった。別の細胞においても細胞内全体に広がった同様の状態が見られた。
図6. 単量体蛍光タンパク質タグを用いた単色および二重染色例
Creator技術を用いて構築したさまざまな種類のタンパク質とDsRed-Monomerタンパク質との融合タンパク質を、HeLa細胞に一過性にトランスフェクションし、蛍光顕微鏡にて可視化した。各細胞はトランスフェクション24時間後に、4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。
パネルA:カベオリンとDsRed-Monomerとの融合タンパク質
パネルB:Rab5 GDP/GTP GTPアーゼ交換因子のホモローグとDsRed-Monomerとの融合タンパク質
パネルC:ゴルジ体(トランス・ゴルジスタック)マーカータンパク質とDsRed-Monomerとの融合タンパク質、および細胞核マーカータンパク質とAcGFP1との融合タンパク質を用いた二重染色
パネルD:ラミンBとDsRed-Monomerとの融合タンパク質、およびアクチンとAcGFP1との融合タンパク質を用いた二重染色 保存
-20℃