B細胞は免疫応答における重要な役割を持ち、細胞表面には病原体の特異的分子を認識するB細胞受容体(BCRs)を発現する。BCRプロファイリング(特異的なHおよびL遺伝子セグメントの多様性やクロノタイプを検出)により、健常な個体の免疫応答だけではなく、様々な疾患に対応する免疫応答の解明にもつながる。免疫システムによって発現が異なるクロノタイプを正確に同定することで、B細胞レパトア解析が可能になる。
SMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kitは、5’RACE法とNGSテクノロジーを組み合わせることにより、BCRプロファイリングの高感度で正確なアプローチを提供する。複数のBCR遺伝子プライマーを用いて増幅するマルチプレックスPCRによるシステムは、プライマーに起因する感度、特異性およびバイアスに関して課題が見られることが判明しており、その結果、クロノタイプの同定が難しくなることが予想されるが、本キットで用いる5’RACE法では、BCRのH鎖、L鎖の定常領域にアニーリングする単一プライマーですべての可変領域を増幅するため、バイアスの少ない解析が可能になる。
本キットでは、BCR mRNAのV(D)J可変領域全体を含んだライブラリーを作製することで、高感度で再現性の高いB細胞レパトア解析を実現する。本キットで作製されたライブラリーを用いてH鎖、κ鎖、λ鎖の3種類のシーケンスを行うことにより、クロノタイプの正確な同定を行うことができる。
図1. BCRの再構成
前駆細胞は生殖系列でV, DおよびJセグメントの組換えを起こし、2つのHeavy chain(H鎖)を生じる。一方、VおよびJセグメントの組換えにより2つのLight chain(L鎖)を生じる。
V、DおよびJセグメントの接合によるランダムな塩基の追加または欠失によりさらに多様性が生じる。さらにB細胞が免疫応答により活性化され、さらなる点変異を生じる体細胞突然変異(SHM)を生じる。
図2.
Panel A. SMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kitのワークフロー
Panel B. BCR IgGの可変領域のcDNA増幅のための2段階PCR
1st PCRは 1st strand cDNAをテンプレートにして、イルミナの Read Primer 2配列と相補的なフォワードプライマー(BCR Primer 1V)とBCRの H鎖またはL鎖の定常領域(非可変領域)に相補的なリバースプライマー(mBCR Primers 1H, 1K, or 1L)で行う。
各鎖は別々の反応で増幅する。Read Primer 2配列と定常領域から増幅することにより、1st PCRによりBCRのH鎖またはL鎖のcDNAの可変領域全体と大部分の定常領域を特異的に増幅する。
2nd PCRは 1st PCRの産物をテンプレートにして、semi-nested プライマー(mBCR Primers 2H, 2K, or 2L)を使用してBCRのH鎖またはL鎖のcDNAの可変領域全体と定常領域の一部を増幅する。1st PCR同様、サブユニットの鎖は別々の反応により増幅する。
図3. 各鎖の異なるライブラリープール方法によるアラインメント率と on-target率(%)
BCRのH鎖とL鎖を含むハイブリドーマ(10E8、HB-8117、TIB-127)からtotal RNAを抽出後、10 ngのtotal RNAとSMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kitを用いてライブラリーを作製した。
H鎖とκ鎖のみのライブラリーをプールしてシーケンスした場合(表中でHKと記載)、IG reference配列(MiXCRソフトウエア Version1.8)に高いアラインメント率が得られた。
H鎖、κ鎖およびλ鎖のライブラリーをプールした場合(表中でHKLと記載)、アラインメント率は低くなったが、多くのH鎖とκ鎖の配列(トップの2 clone)は同一で、それぞれの鎖の割合も同じであった。
また、抗体のアフィニティを規定するCDR3アミノ酸配列もそれぞれのクロノタイプで示された。
図4. 5種類のIgGのサブクラスの増幅
異なるIgGサブタイプの自家調製ハイブリドーマ(10E8)と2種類のATCCのハイブリドーマ(HB-8117、TIB-127)からtotal RNAを抽出した。10 ng total RNAとSMARTer Mouse BCR IgG H/K/L Profiling Kitを用いてライブラリーを作製した。
Panel A:バイオアナライザーの結果より、各ハイブリドーマよりH鎖またはL鎖(κ、λ)の特異的な増幅が確認できた。それぞれのサンプルにおいて、700~900 bpの間でピークが得られ、ピークのパターンから、κ鎖がこれらのハイブリドーマで発現していることを示している。一方、λ鎖のライブラリーは比較的ブロードで小さなサイズのパターンになった。
Panel B:MiXCRソフトウェア(version 1.8)でIG reference配列マッピングした結果より、トップの2クローンのV、DおよびJ遺伝子が同定された。但し、IgGのサブクラスはサンプルによって同定できない場合がある。
Package 1:-70℃
Package 2:-20℃
10X Lysis Buffer、Nuclease-Free Water:-20℃保存。一度融解した後は4℃保存
Elution Buffer: -20℃保存。一度融解した後は室温保存
Mouse BCR IgG H/K/L Indexing Primer Set HT for Illumina:-20℃