pIRES Bicistronic Expression Vectorを使用すると、目的遺伝子が発現する細胞を短時間で効率よく選択できる。本ベクターでは目的遺伝子と選択マーカー遺伝子(薬剤耐性マーカー:図1、蛍光タンパク質マーカー:図2)は同一プロモーター下で発現する。マーカー遺伝子が目的遺伝子と単一mRNAから翻訳されるため、選択マーカーを発現する細胞のほぼすべてが目的遺伝子も発現している。本ベクターの利用により、最小限のスクリーニングで目的遺伝子高発現株が得られる。
図1. 薬剤耐性マーカー搭載IRESベクター
図2. 蛍光タンパク質搭載IRES2ベクター
FP:AcGFP1、DsRed2、DsRed-Express、またはZsGreen1 Living Colors pIRES2 Vectorは目的遺伝子とマーカー遺伝子を同等に発現
pIRES2-蛍光タンパク質ベクターのIRES2配列は、本来のIRES配列を有するため、IRES2下流に搭載される蛍光タンパク質マーカーは従来のIRESベクター(一部の配列を欠損したIRES配列を使用)に搭載された場合よりも高い発現を示す。マーカーは融合タンパク質として発現するのではなく、個別に発現するため、目的タンパク質の生物活性が影響を受けるリスクはほとんどない。pIRES2ベクターは一過性に遺伝子導入した細胞集団を濃縮する場合や蛍光強度により目的タンパク質の発現レベルをモニターする場合にも便利である。
注意: | IRES配列上流のMCSに翻訳されるORFをクローニングしていない状態では、蛍光タンパク質の発現が弱く、蛍光顕微鏡による検出が難しい場合がある。IRES前のMCSに約0.7~1.2 kbの遺伝子を挿入して使用することをお勧めする。
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図4. pIRES2-ZsGreen1 VectorのIRESを介した同時発現をフローサイトメトリーにて確認
pIRES2-ZsGreen1 VectorのマルチクローニングサイトにDsRed-Expressタンパク質をコードする遺伝子を組み込み、細胞に導入した。
パネルA:トランスフェクションしていないコントロール細胞
パネルB:トランスフェクションされた細胞は対角線上に分布し、ZsGreen1とDsRed-Express蛍光タンパク質を同時に発現していることが確認できる。
パネルC:ZsGreen1タンパク質のみを発現するコントロール細胞は、FL-1チャンネルでのみ検出され、X軸に沿って分布が見られた。
パネルD:別途用意したDsRed-Expressタンパク質のみを発現する細胞は、FL-2チャンネルでのみ検出され、Y軸に沿って分布が見られた。
各サンプルの解析は、波長488 nmのレーザー光を用い、FACSCalibur Flow Cytometerで行った。
その他のIRESベクター
pIRES Vectorは、IRESを介して2種類の目的遺伝子を同時に発現するためのベクターである。pEXP-Lib Vectorは哺乳類細胞でcDNAライブラリーを発現するために使用する。遺伝子導入が難しい細胞に目的遺伝子と蛍光タンパク質マーカーを導入するための2種類のレトロウイルス発現用IRESベクターも用意している。
IRESを介して遺伝子が同時に発現
pIRESベクターには、脳心筋炎ウイルス(ECMV)のIRES(mRNA内部のリボソーム進入サイト)が含まれており、1種類のmRNAから2ヵ所のオープンリーディングフレーム(ORF)を翻訳することができる(1、2)。リボソームは、バイシストロン性mRNAの5’末端から目的遺伝子を翻訳するだけでなく、ECMV IRESの位置にも結合し、薬剤耐性あるいは蛍光タンパク質マーカー遺伝子を翻訳する(図3)。薬剤耐性マーカーを搭載したpIRES Antibiotic Selection Vectorでは、部分的に不活性化したIRESを使用しているため、選択マーカー遺伝子の翻訳効率は目的遺伝子より低く、目的タンパク質を高レベルに発現する細胞を優先的に選択可能である(3)。
図3. バイシストロン性mRNA翻訳の概略図
IRES(mRNA内部のリボソーム進入サイト)によって、目的遺伝子は抗生物質耐性タンパク質あるいは蛍光タンパク質と共に同一のmRNAから翻訳される。
IVS=合成イントロン 保存
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