HAT Protein Expression & Purification System(特許出願中)を用いれば、タンパク質の発現と精製を効率よく簡単に行える。HATベクターには新規のポリヒスチジンエピトープタグがコードされており、大腸菌で発現させたタグ融合目的タンパク質を、中性pH/生理的pHの穏やかな条件下で精製できる。HAT (histidine affinity tag) は天然に存在するポリヒスチジンペプチドタグで、インクルージョンボディーを形成しにくい特長を示す。また、本タグは6×Hisより長く(表1)、高分子量の目的タンパク質と融合発現した場合、高分子量タンパク質構造の外側に位置する可能性が高いため、高分子タンパク質の発現、精製に有利な場合がある。すなわち、タンパク質構造内にタグ配列がもぐりこんだ場合に比べ、精製用樹脂とヒスチジン残基がたやすく結合でき、目的タンパク質の精製が容易になる。本システムに含まれるTALON樹脂を組み合わせることで、変性条件下、非変性条件下のいずれでも簡単に目的タンパク質精製を行える(表2)。
図1. TALON Superflowを用いたHATタグ融合タンパク質のFPLC精製
pH7.0の50 mMリン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム、5 mMイミダゾール溶液で
E. coli細胞を抽出し、150 mMイミダゾール溶液で溶出した。
パネルA:TALON Superflow Columnで細胞ライセートを精製した。
パネルB:SDS-PAGEによる解析結果 M:分子量マーカー
表1. ポリヒスチジンタグ配列
タグ | アミノ酸配列 |
6×His | His -His -His -His -His -His |
6×HN | His -Asn -His -Asn -His -Asn -His -Asn -His -Asn -His -Asn |
HAT | Lys -Asp -His -Leu -lle -His -Asn -Val -His -Lys -Glu -Glu -His -Ala -His -Ala -His -Asn -Lys |
表2. HATタンパク質発現&精製システム
HAT Systemの特徴 | 利点 |
長いタグ | 高分子量タンパク質に最適 |
タグを通して均一に分布する電荷 | 高い溶解度 |
独自の天然の配列を使用 | 宿主細胞に対する毒性の可能性を低下 |
生理的pHで精製 | 目的タンパク質の構造を維持 |
pHAT Vectors
HAT SystemはpHA10/11/12という3種類のpHAT Vectorを含んでいる。これらは同一のコンストラクトで、3通りのリーディングフレームでマルチクローニングサイト(MCS)を有している。なお、ベクター内にはエンテロキナーゼ(EK)切断部位が組み込まれており、精製したタンパク質からHAT配列を除去することができる。また、制限酵素部位を利用してHAT配列をEKサイトと共に、または単独で切り取り、他のベクターにクローニングすることもできる。
図2. pHAT 10/11/12ベクターマップ