簡単で非常に効果的な技術
ProteoTuner Shield Systemは細胞内の標的タンパク質“量”を直接、迅速に制御できる画期的な技術である(図1)。Clontechではスタンフォード大学の研究者による研究結果に基づき、スタンフォード大学からライセンスを受けて本システムを製品化し販売している。この技術を用いることで、標的タンパク質を
in vivo レベルで直接、特異的に制御できるようになり、タンパク質の機能解析に大いに役立つ。
図1. リガンド依存的で特異的かつ可逆的な標的タンパク質の安定化/不安定化
不安定化ドメイン(DD:青色)を融合して標的タンパク質を発現する。膜透過性の低分子リガンドShield1(赤色)を添加すると、Shield1はDDに結合し、標的タンパク質をプロテアソーム分解から保護する。Shield1を除去すると、融合タンパク質は迅速に分解される。ProteoTuner Shield Systemでは、Shield1が存在しないデフォルトな状態で融合タンパク質が分解される。
※本システムの酵母での使用は推奨いたしません。
図1に示すようにProteoTunerは2つのコンポーネントを用いて、簡便かつ効率よく標的タンパク質の細胞内レベルをコントロールする。
【コンポーネント-1】 12 kDaの不安定化ドメイン(Destabilizing Domain;DD)
DDを融合して標的タンパク質を発現することで、標的タンパク質は不安定化しプロテアソームによる分解が促進される。DDをコードする配列は各システムに含まれるベクターに搭載されており、標的タンパク質のN末端、またはC末端で効率良く機能するためにそれぞれ最適化されている(pPTuner VectorまたはpPTuner C Vector)。pPTuner Vectorに搭載されたDD(DD-N)は、標的タンパク質のN末端だけでなく、多くの場合にC末端に融合させても機能するが、DDをC末端に融合させてより適切に機能させるためには、ProteoTuner Shield System Cに含まれるpPTuner C Vectorを使用する。C末端タイプのDD(DD-C)は、N末端タイプのDD(DD-N)の配列に改変が加えられており、これにより標的タンパク質のC末端に融合させた場合に基底発現を抑えた高い誘導効率を可能にする(図2)。
図2. Shield1の添加濃度と各DD融合AcGFP1の安定化レベル
DD-N、またはDD-Cの各タグをAcGFP1と融合し、HEK 293細胞中で発現させ、Shield1による安定化の違いを調べた。各濃度のShield1を培地に添加し12時間後にフローサイトメーターを用いてAcGFP1の蛍光強度を測定した。結果、AcGFP1のC末端にDD-C、DD-Nの各タグを融合した場合、DD-Cを融合させた方が低いバックグラウンドレベルの蛍光を示した。
【コンポーネント-2】 750 Daの細胞膜透過性低分子リガンド Shield1
Shield1はDDに結合することでDD融合タンパク質を安定化し、プロテアソーム分解から保護する。すなわち、Shield1の添加によりDD融合タンパク質は安定化して細胞内に蓄積し、その機能を発揮する。安定化は15~30分で迅速に起こることが報告されている(6)が、標的タンパク質ごとに経時的な変化を確認することをお勧めする。
Shield1の濃度を検討することで、標的タンパク質を望ましい量に制御することができる。また、Shield1は細胞の洗浄により取り除くことができ、タンパク質を再度不安定化することも可能である。この系は可逆的であり、繰り返し制御を行うことができる。
・ウイルスによる導入も可能
一般的なプラスミドタイプのシステムに加え、レトロウイルス、またはレンチウイルス導入用のシステムをラインナップしており、いずれにもトランスフェクションマーカーとしてLiving Colors蛍光タンパク質を搭載したものと非搭載のものを用意している。
・抗体による検出が可能
DD Monoclonal Antibodyは、DD-N、DD-CのどちらのタイプのDDも特異的に検出する。DDを融合した標的タンパク質を発現する10,000個の細胞の抽出物からも、DDをウェスタンブロットで検出できる感度の高い抗体である。
シンプルで可逆的なプロトコール
ProteoTuner Shield Systemを細胞に導入した後のプロトコールは、迅速かつシンプルである。標的タンパク質を安定化するためには、Shield1処理を行っていない培養細胞にShield1を添加するだけである。ネガティブコントロールとして、Shield1無添加のまま維持する培養細胞を用意する。添加したShield1はDD融合標的タンパク質をプロテアソーム分解から保護し、細胞内の標的タンパク質発現レベルを劇的に高める。一方、細胞内の標的タンパク質を不安定化し分解するためには、Shield1存在下で培養していた細胞を安定化リガンドShield1を含まない培地に植え継ぐ。Shield1がなくなることで、DD融合標的タンパク質は素早く分解される。コントロールとして、Shield1処理を続ける細胞を用意する。
ウェスタンブロットや形態の解析など標的タンパク質に応じた適切な方法を用いて、経時的に処理細胞とコントロール細胞の解析を行う。
これまで遺伝子発現制御としては、プロモーターを制御して転写されるmRNAの量をコントロールする方法、あるいは転写された後にRNA干渉などによりmRNAの分解や翻訳を制御する方法が用いられてきた。しかし、これらの方法は直接標的タンパク質をコントロールする方法ではないため、転写や翻訳の抑制後にタンパク質が自然に分解されることを待つしかなく、細胞内タンパク質の存在時期、量を能動的に、迅速に、正確にコントロールすることは不可能であった。
本システムでは直接標的タンパク質を制御するため、標的タンパク質量を非常に迅速に調節することができる。例えば、Shield1を除去してから標的タンパク質をノックダウンするのに要する時間は、ルシフェラーゼで30分程度、非常に安定なタンパク質であるGFPでも4時間程度である。逆に、Shield1を添加してタンパク質の発現量を増加させるのに必要な時間は15~30分程度であり、極めて早い調節が可能である。
図3. 予測値に近い制御が可能
DD融合YFP(Yellow Fluorescent Protein)を安定に発現するNIH3T3細胞を用い、Shield1による濃度依存的で可逆的なタンパク質量の制御を一週間にわたってモニタリングした例を図に示す。測定値Observed(赤線)は、発現したYFPの蛍光強度の最高値を100%とする相対値(%)で示している。Shield1制御によるYFPレベルの変動は、別途行ったShield1濃度と細胞内YFP量との相関関係を求めた実験から導いた理論値Predicted(青線)と非常によく似たパターンとなった。
※本データは、Banaszynski
et. al. (2006) Cell
126(5):995-1004に掲載されたデータを、authorの許可を得て一部変更して掲載しています。
ご注意:拡散防止措置に関する確認書が必要な製品です。
Lenti-XシリーズのpLVX系レンチウイルスベクターはプロウイルスにおいてLTRのプロモーター活性を持つため、HIV-1の増殖力等欠損株とは見なされません。このため、これらのベクターを用いた遺伝子組換え実験は、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律第13条に基づき、文部科学大臣による拡散防止措置の確認が必要です。
なお、該当製品をご注文の際に、これらのベクターを使用するにあたり文部科学大臣による拡散防止措置の確認を受けていることをご提示いただく確認書「Lenti-Xシリーズレンチウイルスベクター 拡散防止措置に関する確認書」の添付が必要です。
詳細はこちらごを確認ください。 内容
ProteoTuner Shield System N
(製品コード 632172)
・pPTuner Vector
・Shield1
ProteoTuner Shield System C
(製品コード 631072)
・pPTunerC Vector
・Shield1
ProteoTuner Shield System N (w/ AcGFP1)
(製品コード 632168)
・pPTuner IRES2 Vector
・Shield1
Retro-X ProteoTuner Shield System N
(製品コード 632171)
・pRetroX-PTuner Vector
・Shield1
Retro-X ProteoTuner Shield System N (w/ ZsGreen1)
(製品コード 632167)
・pRetroX-PTuner IRES Vector
・Shield1
Lenti-X ProteoTuner Shield System N
(製品コード 632173)
・pLVX-PTuner Vector
・Shield1
Lenti-X ProteoTuner Shield System C
(製品コード 631074)
・pLVX-PTunerC Vector
・Shield1
Lenti-X ProteoTuner Shield System N (w/ ZsGreen1)
(製品コード 632175)
・pLVX-PTuner Green Vector
・Shield1
備考:
各システムには制御用低分子化合物Shield1溶液 60 μl(6ウェルプレート約5枚分)が含まれます。
なお、pRetroX-PTuner IRES VectorおよびpLVX-PTuner Green VectorはIRESを介してZsGreen1を同時に発現し、pPTuner IRES2 VectorはIRES2を介してAcGFP1を同時に発現します。
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