製品説明
Human ACE2 293T Cell Lineは、ACE2(human angiotensin I converting enzyme 2)を発現するHEK293T細胞株である。
ACE2はHCoV-NL63、SARS-CoV、SARS-CoV-2など、一部のコロナウイルスの受容体としても機能しており、ACE2とSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の相互作用がウイルスの細胞への侵入に関与している。また、ACE2は、内皮細胞などの細胞表面に存在する亜鉛含有の膜貫通型金属酵素で、アンジオテンシンIを心筋細胞の抗肥大作用を持つアンジオテンシン1–9に、アンジオテンシンIIを血管拡張剤、抗増殖剤として機能するアンジオテンシン1–7に変換する働きを持つ。
本製品はレンチウイルスを用いてヒトACE2を形質導入した安定発現株で、CMVプロモーター下でACE2を高発現している。
Lenti-X SARS-CoV-2 Packaging Single Shots(製品コード 632668~632671)などを用いて作製したSARS-CoV-2シュードウイルスと組み合わせて、宿主細胞株として利用することができる。
図1. フローサイトメトリーによるACE2発現の分析
Human ACE2 293T Cell Lineの細胞表面のACE2発現を、Alexa Fluor 488標識 抗ACE2抗体(R&D Systems、Cat. No. FAB9332G)を使用して、フローサイトメトリーで検出した。 非標識細胞をネガティブコントロールとして使用した。
図2. 継代を繰り返した細胞のACE2発現安定性の確認
Human ACE2 293T Cell Lineを繰り返し継代し、ACE2の発現レベルをRT-qPCRで測定した。
測定には
One Step PrimeScript RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(製品コード RR064A)を用い、ハウスキーピング遺伝子
ACTBをリファレンス遺伝子として2 ^(-ΔΔCt)を計算することにより、293T細胞株に対するACE2の相対発現量を求めた。
Human ACE2 293T Cell Lineは、継代を重ねた後も安定してACE2の発現レベルを維持していることが確認された。
図3. ZsGreen1をコードするSARS-CoV-2シュードウイルスを用いたHuman ACE2 293T Cell Lineへの形質導入
Lenti-X SARS-CoV-2 Packaging Single Shotsを用いて、蛍光タンパク質ZsGreen1をコードし、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の野生型またはD614Gエンベロープ(Truncated)を持つシュードタイプレンチウイルスを作製した。
シュードウイルスを含む培養上清をそれぞれ100 μl使用して、6 μg/mlポリブレン存在下でHuman ACE2 293T Cell Lineに形質導入した。
パネルA. 感染72時間後の形質導入細胞の顕微鏡画像。
パネルB. 各サンプルの形質導入効率。導入6日後にフローサイトメトリーによって測定した。
図4. ルシフェラーゼをコードするSARS-CoV-2シュードウイルスを用いたHuman ACE2 293T Cell Lineへの形質導入
Lenti-X SARS-CoV-2 Packaging Single Shotsを用いて、ルシフェラーゼタンパク質をコードし、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の野生型またはD614Gエンベロープ(全長、またはTruncated)を持つシュードタイプレンチウイルスを作製した。
培養上清を濃縮したウイルス液(21×)各10 μlを使用して、6 μg/mlポリブレン存在下でHuman ACE2 293T Cell Lineに形質導入し、6日後にルシフェラーゼ活性を測定した。バックグラウンドシグナルの確認のため、エンベロープタンパク質を持たないウイルスをコントロールとして用いた。
図5. アカゲザルの回復期プール血清を用いたSARS-CoV-2シュードウイルスの中和試験
アカゲザルの回復期プール血清(Pooled Non-Human Primate Convalescent Serum to SARS-Related Coronavirus 2, Gamma-Irradiated; BEI Resources、Cat. No. NR-52401)の段階希釈液を作製し、野生型(Truncated)SARS-CoV-2シュードウイルスと混合してインキュベート後、6 μg/mlポリブレン存在下でHuman ACE2 293T Cell Lineに加えた。 感染から3日後にルシフェラーゼ活性を測定し、ウイルス感染の評価を行った。 血清を添加していないウイルスに対する中和率をグラフに示した(値は3回の試験の平均±SDで記載)。陰性コントロールとして健康なアカゲザルの血清を使用した。
図6. 可溶性ACE2タンパク質を結合阻害剤として用いた中和試験
ACE2タンパク質とIgGのFc部分を融合させたACE2-Fc融合タンパク質の段階希釈液を作製し、SARS-CoV-2シュードウイルスと共に6 μg/mlポリブレン存在下でHuman ACE2 293T Cell Lineに添加した。
感染から3日後にルシフェラーゼ活性を測定し、ウイルス感染の評価を行った。シュードウイルスのみを添加したコントロールに対する中和率をグラフに示した(値は3回の試験の平均±SDで記載)。
内容
Human ACE2 293T Cell Line 1 ml(2.0×106 cells/tube)
保存
液体窒素もしくは超低温(-150℃)フリーザー
到着後、ただちに液体窒素中で保存する。
液体窒素保存ができない場合は、ただちに細胞を融解し、培養を行う。
推奨培地
90% Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM) with high glucose (4.5 g/L), 4 mM L-glutamine, and sodium bicarbonate (Sigma-Aldrich, Cat. No. D5796)
10% Fetal Bovine Serum (FBS)
1 mM sodium pyruvate (Sigma-Aldrich, Cat. No. S8636)
注意
細胞融解後の培養にはコラーゲンコートディッシュの使用をお勧めします。
細胞の接着には最大48時間かかります。
用途
- SARS-CoV-2の中和研究
- ウイルス-受容体相互作用とウイルス侵入の研究
本製品の使用に関して