ランダムプライマーDNAラベリング法について
ハイブリダイゼーション法によりDNA中に存在する特異的配列を検出する際には、非常に高い比放射活性を持つDNAプローブが必要である。
このDNAプローブ作製のために用いられるDNA標識法としては、従来はニックトランスレーション法が主に用いられていたが、このニックトランスレーション法には、次のような欠点があることが知られている。
1.放射性物質の取り込み率が比較的低い。
2.長時間の反応を行うと、DNA Polymerase I のexonuclease活性によりすでに取り込まれた放射性物質が遊離し、取り込み率が低下する。
3.鋳型となるDNAが高純度であることが必要である。
4.反応後に未反応の放射性dNTPを除去する必要がある。
1983年にFeinberg, A. P. とVogelstein, B. により発表されたランダムプライマーとKlenow Fragmentを用いてDNAの標識を行う方法は、これらの欠点を持たないDNA標識法である(表1)。その原理を図2に示した。鋳型DNAを熱変性により一本鎖DNAとし、この一本鎖DNAに対しランダムプライマーをアニールさせた後、Klenow Fragmentを用いて相補鎖合成を行う。このとき、dNTPの一つあるいは複数に〔α-
32P〕〔α-
35S〕〔
3H〕等の標識化合物を用いると、合成される相補鎖が標識される。この相補鎖を熱変性により一本鎖とし、ハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。
表1 DNA標識法の比較
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ニックトランスレーション法 |
ランダムプライマーDNAラベリング法 |
反応時間 および 反応モニター |
長時間の反応により取り込み率が低下する。このため反応モニターを行い、取り込み率を測定する必要があ
る。 |
短時間で高非活性プローブが得られる。また、長時間の反応を行っても取り込み率は低下しない。 |
| プローブの比活性 |
~108 dpm/μg |
~109 dpm/μg |
| 鋳型DNA中の不純物の影響 |
アガロース等の混入によって反応が阻害される。 |
アガロース等の混入によってほとんど阻害されない。 |
| 鋳型DNA量 |
1 μg程度 |
25 ng |
| 反応後の処理 |
ゲルろ過による未反応dNTPの除去が必要。 |
反応液から未反応dNTPの除去をすることなくハイブリダイゼーションに用いることができる。 |
図2 ランダムプライマーによるDNA標識の原理
