MandelとHigaによる大腸菌における形質転換法の確立は、組換えDNA実験の重要な基礎となった。大腸菌をCaイオン存在下に置くと外来DNA(プラスミド、ファージDNA)を細胞内に取り込む“コンピテント”状態になり、この状態の細胞をコンピテントセルと称している。
組換えDNA実験では、コンピテントセルを用いた形質転換、形質導入等がよく行われるが、効率が高く再現性のよいコンピテントセルの作製は難しいとされている。遺伝子ライブラリーの作製、組換え体プラスミドの作製やサブクローニング等、特に目的とする遺伝子の含量が少ない場合では導入効率の高いコンピテントセルを用いることが重要となる。
タカラバイオでは、Hanahanの方法を改良した新しい方法により、効率の高い10種類のCompetent Cells
E. coli HST08 Premium、HST02、HST04
dam-/
dcm-、JM109、DH5α、HB101、CJ236、MV1184(これらは全てEK1系の宿主大腸菌である)を調製している。
(注意)これらの製品は、エレクトロポレーションによる形質転換には使用できません。エレクトロポレーションによる形質転換には
E. coli Electro-Cellsをご利用ください。
高効率α-相補性選択宿主E. coli HST08 Premium
E. coli HST08 Premiumは外来のメチル化DNAを切断する遺伝子群
mrr,
hsdRMS,
mcrBC,
mcrAを欠失している。さらに、非常に高い形質転換能力を持っているため、メチル化されたDNAのクローニングから、遺伝子ライブラリーの作製、サブクローニング等に至るまで幅広い用途に使用できる。また、長鎖プラスミドDNAの形質転換においても高い効率が得られ、コロニー形成速度も速いため
*、TaKaRa DNA Ligation Kit LONG(製品コード 6024)との組み合わせにより10 kb以上のDNAのクローニング、ライブラリー作製を容易に行える。
* 同様の遺伝子型を持つ他のコンピテントセルと比較した場合。
pUC系プラスミドでの形質転換の際には、β-ガラクトシダーゼのα-相補性を利用し、X-Gal添加により組換え体の選別が容易となる。F
-であるため、BAC、フォスミドベクターにも使用可能である。
dam、dcm欠損宿主E. coli HST04 dam-/dcm-
E. coli HST04
dam-/
dcm-は本来大腸菌が持っているメチル化遺伝子
dam、
dcmを欠損しているため、DNAが大腸菌によりメチル化されることがない。本製品で調製されたプラスミドは
damまたは
dcm methylaseの影響を受ける制限酵素で切断することが可能である。
なお、
dam、
recAの2重変異株は致死になるため、本株は
recA+株になっている。このため、反復配列をもつような外来DNAは
recA遺伝子により、組換えが起こることが予想される。
本製品はクローニング用の宿主には適していない。形質転換の際には、あらかじめ構築されたプラスミドの使用をお勧めする。
α-相補性選択宿主E. coli HST02
E. coli HST02は、外来のメチル化DNAを切断する遺伝子群Δ (
mrr-hsdRMS-mcrBC)、
mcrAを完全に欠失しているため、遺伝子ライブラリーの作製、サブクローニングに広く使用できる。また、F'プラスミドを所有するため、M13ファージベクターDNAの宿主としても利用できる。
pUC系プラスミドでの形質転換やM13ファージベクターDNAでの形質導入の際には、β-ガラクトシダーゼのα-相補性を利用し、X-Gal, IPTGにより組換え体の選別が容易となる。
α-相補性選択宿主E. coli JM109
E. coli JM109は、pUC系プラスミドベクターDNAによる形質転換やM13ファージベクターDNAによる形質導入等を行う際に、ベクターDNAより生成する
lacZαペプチドとJM109F'にコードされる
lacZΔM15とによるβ-ガラクトシダーゼの活性回復(α-相補性)を利用することにより、組換え体の選別を容易にする菌株である。
F'プラスミドを有するため、遺伝子ライブラリーの作製やサブクローニングの他に、M13ファージベクターDNAの宿主として一本鎖DNAの調製にも利用できる。
α-相補性選択宿主E. coli DH5α
pUC系プラスミドを使用して遺伝子ライブラリーの作製、サブクローニングを行った場合、本宿主菌と組み合わせると、β-ガラクトシダーゼのα-相補性を利用してX-Galによる組換え体の選別が容易となる。
高効率汎用宿主E. coli HB101
E. coli HB101は、組換えDNA技術の開発当初より汎用され、遺伝的形質も安定した使用しやすい菌株であり、上記実験目的に適している。
部位特異的変異処理用ssDNA調製宿主E. coli CJ236
E. coli CJ236は、
dut、
ung変異を持つ大腸菌で、dUTPase(Dut)とUracil-DNA glycosylase(Ung)を欠損している。そのため、DNA中のThymine(T)の一部がdeoxyuracil(dU)に置き換わったDNAを合成する。
Kunkel法は、このような大腸菌を使用してsite-directed mutagenesisを行う方法で、このCJ236を宿主菌とし、変異を導入したい遺伝子をpUC118/119、M13ファージ等一本鎖DNAを調製できるベクターにクローニングしてssDNAを調製することにより、Kunkel法に使用できるdeoxyuracil含有DNAが得られる。F'プラスミド(pCJ105)はクロラムフェニコール耐性遺伝子を含んでいるため、クロラムフェニコール存在下で安定に保持される。
アンバー変異選択用およびssDNA調製用宿主E. coli MV1184
E. coli MV1184は、amber suppressor free株で、アンバー変異DNAの選択に利用する。あるいは、Mutan-Super Express Km(製品コード RR022)を用いて変異導入を行う際に、変異導入されたDNAをセレクションするために用いる。また、F'プラスミドを有するためM13ファージベクターやファージミドベクターの宿主としてssDNAの調製にも利用できる。