製品説明
Human Cell-Free Protein Expression System(製品コード 3281)は、ヒト細胞株由来の細胞抽出液を利用した無細胞タンパク質合成システムであり、1チューブの中でRNA転写からタンパク質合成までを行うことができる。
本システムのCell Lysateには
in vitroでのタンパク質合成反応に必要な各種因子(リボソーム、翻訳開始・伸長因子、tRNA等)が含まれている。このCell Lysateに、キット添付のT7 RNA Polymerase、Mixture-3(ATP等やアミノ酸類)、Mixture-2(翻訳増強因子)などと、目的遺伝子をクローニングしたpT7-IRES Vectorを添加するだけの簡便なプロトコールで、速やかに目的タンパク質の翻訳を開始することができる(図1)。
本システムでは目的遺伝子からの転写反応と翻訳反応が同一チューブ内で行われるため、2ステップ反応系で懸念されるmRNAの分解を最小限に抑えることができる。また、一般的なウサギ網状赤血球系を用いた無細胞タンパク質合成システムよりも合成効率が高く、合成収量の増加が期待でき(図2)、150~200 kDaの高分子量タンパク質の合成にも利用できる(図3)。
本システムはシングルステップ反応系を利用したハイスループットなタンパク質合成検討のほか、生細胞発現系では合成が困難な、宿主細胞の生育や細胞機能に影響を及ぼす毒性タンパク質の合成への応用も期待できる。
図1. Human Cell-Free Expression System模式図
反応液[Cell Lysates*、T7 RNA Polymerase、Mixture-1、Mixture-2(翻訳増強因子)、Mixture-3(ATP等やアミノ酸類)]に目的遺伝子をクローニングしたpT7-IRES Vectorを添加するだけの簡便なシングルチューブ反応で、mRNAへの転写からタンパク質合成までをワンステップで行うことができる。
* Cell Lysate にはin vitroでのタンパク質合成反応に必要となるリボソーム、翻訳開始・伸長因子、tRNA等の各種因子が含まれている。
本システムで用いるために、Hisタグやc-Mycタグ配列を配置した発現ベクターを別途用意している。T7プロモーターとEMCV IRES配列の下流に、Hisタグまたはc-Mycタグのタグ配列、Factor Xa切断配列、マルチクローニングサイト、polyA、T7ターミネーターが配置されている。タグ配列の種類、配置場所の異なるベクターを3種類用意しており、目的に合わせて最適なベクターを選択することができる。
例えば、pT7-IRES His-N DNA(製品コード 3290)はN末端に、pT7-IRES His-C DNA(製品コード 3291)はC末端に、Hisタグを付加した目的タンパク質の発現が可能である。Hisタグ配列を介して精製後に発現タンパク質からHisタグ配列を除去できるよう、Factor Xa切断配列が導入されている。また、pT7-IRES Myc-N DNA(製品コード 3292)はN末端にc-Mycタグを付加した目的タンパク質の発現が可能であり、同様にFactor Xa切断配列が導入されている。(ベクターマップ参照)
これらのベクターのマルチクローニングサイトにフレームを合わせて挿入した目的遺伝子はT7プロモーターの制御下でEMCV IRESを有するRNAとして転写され、EMCV IRESの翻訳開始促進効果により、本無細胞タンパク質発現システムで効率的な高発現を実現する。
内容
Human Cell-Free Protein Expression System(製品コード 3281)
1. Cell Lysate *1 | 100 μl |
2. Mixture-1 | 60 μl |
3. Mixture-2 *2 | 10 μl |
4. Mixture-3 *2 | 20 μl |
5. T7 RNA Polymerase (200 U/μl) | 10 μl |
6. pT7-IRES Vector (0.5 μg/μl) | 20 μl |
7. Control Vector *3 (0.3 μg/μl) | 5 μl |
*1 | 使用直前に溶解し、ピペットマンで穏やかに十分混合した後、ただちにご使用すること。また、使用後は速やかに-80℃で保存してください。
(注)5回程度の凍結融解では、通常、大きな性能低下は見られないが、できるだけ小分け分注して保存することを推奨する。 |
*2 | Mixture-2およびMixture-3はタンパク質を含む。過剰な攪拌などタンパク質の失活をまねく操作を加えないこと。Mixture-2に含まれるタンパク質にはHNタグが付加されている。 |
*3 | β-ガラクトシダーゼ遺伝子が挿入されている。 |
保存
製品コード 3281
-80℃
製品コード 3290、3291、3292
-20℃
ベクターマップ
DNAシーケンスデータ
Fasta形式 : ホモロジー検索のデータベースや配列を扱う各種ツールに使用する際によく使われるファイル形式で、一行目の>の後ろにファイル情報(ベクター名)を入れています。
配列部分は、60塩基ごとに改行した形です。
IRES 配列の利用と独自の翻訳増強因子により高い翻訳効率を維持
pT7-IRES Vectorから転写される目的遺伝子RNAには、タンパク質の翻訳開始を促進するためのIRES配列が付加されている。また、反応液に添加する独自の翻訳増強因子は、タンパク質合成の進行とともに不活性化する翻訳開始因子を再活性化することで、翻訳レベルの低下を抑え、高い翻訳効率を維持する(技術情報参照)。これら翻訳効率増強効果により、本システムでは、従来のウサギ網状赤血球を用いた無細胞タンパク質合成系などの欠点であった低い合成レベルが改善されており、150 kDaを超える高分子量タンパク質の合成にも応用可能であることを確認している(図2、図3)。
図2. | Human Cell-Free Protein Expression Systemとウサギ網状赤血球系無細胞タンパク質合成システムにおけるβ-ガラクトシダーゼ合成レベルの比較 |
それぞれのプロトコールに従ってβ-ガラクトシダーゼ合成反応を行い、化学発光基質を用いてβ-ガラクトシダーゼ活性を測定した。その結果から、ウサギ網状赤血球系を用いた無細胞タンパク質合成系に比べ、ヒト細胞株由来の本システムでは非常に高いレベルでタンパク質合成が行われることが確認できた。
図3. 本システムを用いた高分子量タンパク質(170 kDa, 200 kDa)の発現
本システムを用いて高分子量タンパク質の合成反応を行った。SDS-PAGEを行い、CBB染色にて目的タンパク質の検出を行ったところ、目的サイズ(170 kDa, 200 kDa)のタンパク質を検出することができた。
Lane 1: Negative Control
Lane 2: Human Dicer(200 kDa)
Lane 3: Human eIF4G(170 kDa) 用途
- 高分子量タンパク質の合成
- 機能性タンパク質の合成
- 毒性タンパク質の合成
- cDNA産物の網羅的スクリーニング
- タンパク質/タンパク質相互作用解析
- タンパク質/DNA相互作用解析
- タンパク質の変異導入解析
使用文献・参考文献
使用文献
Human Cell-Free Protein Expression System(methionine-free;カスタム品)を用いて目的タンパク質をアイソトープラベルした例
Igari A., Moriki T., Wada H., Soejima K., Murata M.
Monitoring ADAMTS13 Autoantibody Titer Using a Novel Quantitative Radioimmunoprecipitation Assay In Patients With Acquired Thrombotic Thrombocytopenic Purpura
Blood、2013, 122: 3561
参考文献
Mikami, S., Kobayashi, T., Masutani, M., Yokoyama, S., and Imataka. H.
A human cell-derived in vitro coupled transcription/translation system optimized for production of recombinant proteins
Protein Expression and Purification (2008) 62, 190-198.
関連資料