レンチウイルスベクターによる遺伝子導入 <製品選択ガイド>
組換えレンチウイルスを用いた標的細胞への遺伝子導入(トランスダクション)例
ポリブレン法
以下に示すプロトコールは、ポリブレンを用いて接着性細胞株(HT-1080、HeLaなど)に遺伝子導入する一般的な方法である。標的細胞に対するポリブレンの最適濃度を実験的に求めて使用するが、通常、2~12 μg/mlの濃度範囲に入る。しかし、ポリブレンに過剰(24時間よりも長く)にさらすと、細胞毒性が現れる。本プロトコールを参考に、使用する標的細胞への遺伝子導入最適条件を検討する。遺伝子導入が困難な細胞あるいはポリブレンに弱い細胞の場合は、
RetroNectin(Recombinant Human Fibronectin Fragment)(製品コード T100A/B)を用いると、遺伝子導入効率を著しく向上させることができる。(詳細はRBV-spin法をご参照)
- 遺伝子導入の前日に標的細胞を播種する。
- 力価測定した少量のレンチウイルスストック液を融解する。あるいは、パッケージング細胞から調製した直後のウイルス液を用いる。融解したレンチウイルスを穏やかに混合する。
注 | ボルテックスで撹拌しないでください。また、凍結融解のたびに力価が減少するので注意が必要です。 |
- レンチウイルス液とポリブレンを添加できるように、標的細胞の培地の容量を調整する。遺伝子導入の過程で目的の最終濃度(例えば4 μg/ml)となるようにポリブレンを添加する。
- 目的の多重感染度(MOI)が得られるように、レンチウイルス液を培地で希釈する。ウイルス力価が不明な場合は、レンチウイルス液の段階希釈系列を用いる。この場合、ウイルス液の全量が、遺伝子導入に用いる培地の最終容量の1/3以下となるようにする。
- ウイルス上清を細胞に加え、8~24時間、37℃、5% CO2インキュベーターで培養する。感染効率を向上させたい場合は、培養液を遠心後(プレートを32℃で1,200×g、60~90分遠心すると、感染率が著しく増大する。32℃が使えない場合は、室温遠心でもよい)、37℃、5% CO2インキュベーターで培養する。ポリブレンあるいはウイルス上清(パッケージング細胞によってコンディショニングされた培地を含む)に細胞を長くさらすことが心配な場合は、遺伝子導入の時間を6~8時間に短縮してもよい。
- ウイルスを含む遺伝子導入培地(トランスダクション培地)を除去して、新しい培地を加える。
注 | 廃棄する培地には感染能を持ったウイルスが含まれているので適切な処理を行ってください。 |
- 十分な導入遺伝子発現が確認できるまで(通常、24~48時間)、感染細胞を培養する。
- 解析のために細胞を回収する。あるいは、適切な抗生物質を用いて選択を始める。
注 遺伝子導入効率を求めるために、感染細胞の一部を抗生物質選択に供し、残りの細胞を回収して分析に用いることをお勧めします。
RBV-spin法
RetroNectinコートプレートの作製
- RetroNectin溶液を融解し均一になるように混合する(ボルテックスによる撹拌は避ける)。使用時に滅菌済みPBSで適当な濃度(20~100 μg/ml)*1となるように希釈する。
*1 フィルターに吸着する可能性があるため、希釈後のRetroNectin溶液はフィルターろ過しない。 |
- クリーンベンチ内で、0.25~0.5 ml/cm2(プレート底面が溶液で浸る程度)となるようにRetroNectin希釈液をプレート*2に加えてプレート全底面に広げ、室温で2時間または4℃で一晩放置する。24ウェルプレートの場合には1ウェルあたり0.5 ml、6ウェルプレートの場合には1ウェルあたり2 mlのRetroNectin希釈液を加える。
*2 プレートは必ずノントリートメントタイプのものを使用する。 |
- RetroNectin希釈液を除き、適当量の2% BSA/PBS溶液を加えてブロッキングを行う。室温で30分間放置する*3。24ウェルプレートの場合は0.5 ml/well、6ウェルプレートの場合は2 ml/wellのブロッキング液を加える。
*3 | すぐに使用する場合は、2% BSA/PBS溶液によるブロッキング操作は省くことができる。この場合、ステップ4のPBSまたはHBSS/HEPESによる洗浄を2回繰り返す。 |
- 2% BSA/PBS溶液を除き、適当量のPBSまたはHBSS/HEPESで一度洗浄し、それらを除去した後、プレートを保存する。このプレートをRetroNectinコートプレート*4とする。
*4 | 2% BSA/PBS 溶液によるブロッキング操作を行った場合は、容器のふたをパラフィルムなどでシールし、4℃で1週間の保存が可能である。 |
RetroNectin Bound Virus(RBV)-Spin法(遠心感染)
注 | マルチウェルプレートの場合、ウェル位置により導入率に差が生じることがある。できる限りプレート中央に近いウェルを使用することをお勧めする。 |
- 目的遺伝子を持つ組換えウイルス液の原液、あるいは希釈液をRetroNectinコートプレート上に125~250 μl/cm2となるように加える。
- 32℃で2,000×g、2時間の遠心を行い、RetroNectinへウイルス粒子を吸着させる。
- プレート上が乾燥しないように注意しながら、ウイルス液を除去し、適当量のPBSまたは0.1~2%のアルブミン(BSAやHSA)を含むPBSを添加する(溶液は細胞へのウイルス感染直前まで除かない)。
- 標的細胞懸濁液を調製する。適切な細胞濃度は標的細胞の大きさや増殖率によって異なる。細胞に応じて、0.05~5×105 cells/cm2の範囲で検討する。
- 3.で作製したウイルス結合プレートの溶液を除去し、速やかに細胞懸濁液を加える。
標的細胞とウイルスベクターの接触を促す目的で、細胞添加後、遠心操作を行っても良い。例えば500×g、1分間遠心など。
- 37℃、5% CO2インキュベーターで培養する。
レンチウイルスベクターによる遺伝子導入 <製品選択ガイド>