下水疫学調査(下水サーベイランス)用リアルタイムPCRキット

【アストロウイルス/アデノウイルス】下水サンプルからのウイルス検出におけるDNA/RNA抽出キットの適合性評価

【対象製品】
Astrovirus/Adenovirus F Detection RT-qPCR Kit for Wastewater(製品コード RC385A)

【概要】
山梨県内の2ヵ所の下水処理場において採取した流入下水サンプル(計6試料)を使用し、PEG沈殿法によりウイルスを濃縮した後、各DNA/RNA抽出キットを用いて核酸精製を行った。回収した精製核酸を用いて、アストロウイルスおよびアデノウイルスF種の検出反応をN=2で実施した。

<評価したDNA/RNA抽出キット>
  1. NucleoSpin Virus(製品コード 740983.10/.50/.250)
  2. NucleoMag DNA/RNA Water(製品コード 744220.1/.4)
  3. NucleoMag Pathogen(製品コード 744210.1/.4)
  4. 他社抽出キットA
  5. 他社抽出キットB

【結果】
NucleoMag DNA/RNA WaterおよびNucleoMag Pathogenは、アストロウイルスおよびアデノウイルスF種の両ターゲットにおいて、他社抽出キットA、他社抽出キットBと比較し、小さいCt値が得られた。特にNucleoMag DNA/RNA Waterは、両ターゲットにおいて最も小さいCt値が得られた。
NucleoSpin Virusは、アデノウイルスF種の検出において他社キットAと同等のCt値であったが、アストロウイルスの検出においては、他社抽出キットA、他社抽出キットBより小さいCt値が検出された。

各DNA/RNA抽出キットから得られた精製核酸を鋳型としたリアルタイムRT-qPCR測定値(アストロウイルス)
図1.各DNA/RNA抽出キットから得られた精製核酸を鋳型としたリアルタイムRT-qPCR測定値(アストロウイルス)

各DNA/RNA抽出キットから得られた精製核酸を鋳型としたリアルタイムRT-qPCR測定値(アデノウイルスF種)
図2.各DNA/RNA抽出キットから得られた精製核酸を鋳型としたリアルタイムRT-qPCR測定値(アデノウイルスF種)

表1.全下水サンプルにおける各DNA/RNA抽出キットの測定値の平均値±標準偏差
DNA/RNA抽出キットCt (mean± standard deviation)
AstrovirusAdenovirus F
NucleoSpin Virus31.6±1.630.4±2.5
NucleoMag DNA/RNA Water30.9±1.727.9±2.1
NucleoMag Pathogen31.3±1.828.3±2.2
他社抽出キットA32.5±1.930.1±2.0
他社抽出キットB32.5±1.628.9±2.3
平均値が最も小さい値を赤色、最も大きい値を緑色で示した。

【方法】
  • ウイルスの濃縮:PEG沈殿法
    1. 40 mlの下水サンプルにPEG8000を4.0 gおよびNaClを0.94 g添加し、混合する。
    2. 12,000×g 99分 4℃の条件で遠心する。
    3. 上清を除去する。
    4. 12,000×g 5分 4℃の条件で遠心する。
    5. 上清を除去する。
    6. 800 μlの滅菌水で沈殿物を懸濁する。
      従来法の4℃での一晩の振とうおよびその後の遠心の工程を、手順2~5にて代用することにより作業時間を短縮しました。
      公益社団法人日本水環境学会COVID-19タスクフォース発行「下水中の新型コロナウイルス遺伝子検出マニュアル」(2021年3月)

  • 核酸精製
    上記の方法で得られたウイルス濃縮液から分取した200 μlについて、以下の方法による精製を行った。全てのキットにおいて最終溶出量は100 μlに統一した。

    ①NucleoSpin Virus
    精製は手作業にてNucleoSpin Virusユーザーマニュアルに従い実施した。

    ②NucleoMag DNA/RNA Water
    自動核酸精製装置MagnetaPure 32 Plus(製品コード 747010)のNucleoMag DNA/RNA Waterプリセットプログラムを使用した。NucleoMag DNA/RNA Waterユーザーマニュアルから下記を変更した。

    <変更点>
    • Lyse sample工程
      濃縮サンプル200 μlにMWA1 250 μlを添加し、ボルテックスミキサーで10分間撹拌した後、Proteinase K 20 μlを添加し、56℃で15分間インキュベートした。

    • Elute DNA工程
      56℃でのインキュベートを追加した。

    ③NucleoMag Pathogen
    NucleoMag Pathogenユーザーマニュアルに従いLyse sample工程を実施した。その後の工程は、自動核酸精製装置MagnetaPure 32 PlusのNucleoMag DNA/RNA Waterプリセットプログラムを使用した。

  • リアルタイムPCR反応組成:取扱説明書記載の通り
  • リアルタイムPCR装置:Thermal Cycler Dice Real Time System III (Cy5) with PC(製品コード TP990)
  • リアルタイムPCR条件:
    25℃
    42℃
    95℃
    95℃
    56℃
    10 min.
    5 min.
    30 sec.
    5 sec.
    30 sec.
    45 cycles
本手順およびデータは、弊社との共同研究を通じて、国立大学法人山梨大学 国際流域環境研究センター 原本英司教授よりご提供いただきました。

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