細胞内で発現しているRNAの中に、タンパク質をコードしていないものが多く存在し、それらが重要な機能を持つことが明らかになってきた。これらは機能性RNAという名称で分類されているが、その中でも特に18~26塩基程度の低分子RNA(smallRNA、miRNAなど)の機能が注目されている。これら低分子RNAの機能としては、
(1) 遺伝子発現をmRNAレベルで抑制する
(2) 遺伝子発現を翻訳レベルで抑制する
ことがこれまでに示されている
1)、2)。
低分子RNAの発現解析を行う手段の一つとして、クローニングによる解析がある。低分子RNAはmRNAのようなpolyA tailを持たないため、分離した低分子RNA画分に対し、その5'側および3'側にRNAまたはRNA/DNAキメラのアダプターを結合させて逆転写し、PCRで増幅した後クローニングを行う方法が用いられている
3)。
本キットは、上記原理をもとにした低分子RNAのクローニング用cDNA増幅キットである。このキットでは、マグネットビーズの利用により、アダプター結合後のゲル抜きなどの煩雑な操作をできる限り除き、簡便な操作で低分子RNA由来cDNAを増幅できるよう工夫している。増幅したcDNAはそのままTAクローニングに用いることが可能である。また、アダプター配列中にある制限酵素サイトを利用したクローニングも可能になっている。
total RNAを電気泳動してゲル抜きを行うなどの操作で調製した低分子RNA(small RNA)を、本キットを用いてクローニングする場合の流れを図1に示す。
- 調製したsmall RNAをBAP処理することにより、5'側のリン酸基をはずす。
- BAP処理したRNAの3'側に、ビオチン化RNA/DNAキメラアダプターを結合させる。
- ストレプトアビジン結合磁気ビーズを用いてビオチン化アダプター結合small RNAを回収し、T4 polynucleotide kinaseにより5'側にリン酸基を付与する。
- 5'側に、RNA/DNAキメラアダプターを結合させた後、RT-primerを用いて逆転写酵素M-MLV4)により逆転写反応を行う。
- cDNAをビーズから回収し、PCRを行う。
- PCR フラグメントまたは制限酵素処理したフラグメントを回収し、クローニングを行う。