Retro-X Tet-On AdvancedおよびTet-Off Advanced Inducible Expression Systemsでは、効率的なレトロウイルスによる遺伝子導入法と強力なテトラサイクリン誘導遺伝子発現系を組み合わせている。レトロウイルスベクターは、さまざまな細胞株や初代培養細胞における多様な遺伝子発現誘導系の構築を可能にする。
本システムは、2種類のレトロウイルスベクターから構成されている。一つは調節ベクターでTet-On Advanced(rtTA-Advanced)またはTet-Off Advanced(tTA-Advanced)トランス活性化因子を発現する。もう一つは応答発現ベクター(pRetro-X-Tight-Pur)で目的遺伝子の発現を制御する。これらから作製した2つの組換えレトロウイルスを用いて標的細胞へ遺伝子導入を行うことで、ドキシサイクリン(Dox)の容量依存的制御下で目的遺伝子を発現する安定細胞株を作製することができる(図1、図2)。安定なTet調節性細胞株の作製をバイパスするウイルス二重感染法でも、2種類のウイルスが組み込まれた安定な細胞株(二重安定細胞株)を得ることが可能である(図2)。より短時間での樹立が可能だが、理想的な二重安定細胞株を同定するため、より多数クローンをスクリーニングしなければならない場合がある。また、2種類のレトロウイルスを含む培養上清を異なる比率で二重感染させることにより、異なるレベルの誘導特性を示す細胞株を調製することができる。
図1. Tet-On/Off Advanced Systemの概要
テトラサイクリン(Tet)調節性トランス活性化因子タンパク質(rtTA-Advanced) は単純ヘルペスウイルスの3つの最小VP16活性化ドメイン(AD)にTetリプレッサー変異体(rtetR-M2)を融合させた融合体で、哺乳類細胞内での発現にコドンが至適化されている。ドキシサイクリンの存在下で、rtTA-Advancedは、TRE-Tightと結合し、下流遺伝子の転写を活性化させる。tTA-Advancedはドキシサイクリンの非存在下で発現を誘導する。
図2. Retro-X Tet-On Advanced Systemによる発現調節細胞の樹立例
Retro-X Tet-On Advanced Systemの場合、まずウイルスパッケージング細胞株にTet調節因子発現ベクター(pRetro-X Tet-On Advancedベクター)とTet応答因子ベクター(pRetro-X Tight Purベクター)をそれぞれ一過性に導入し2種類のウイルスを調製する。Retro-X Universal Packaging System(製品コード 631530;別売)はレトロウイルスベクターと任意のウイルスエンベロープベクターをコトランスフェクトできるため、産生されるウイルスの宿主域を標的細胞株に合わせることができる。パッケージング細胞の培養上清よりウイルスを回収して標的細胞に感染させ、発現調節可能な細胞を構築する。pRetro-X Tet-On Advancedベクターより調製したウイルスを最初に標的細胞に感染させ、Tet調節因子を安定に発現する細胞を構築する。スクリーニング後、さらに目的遺伝子を組み込んだTet応答因子を含むウイルスを感染させることで遺伝子発現調節を行なえる。同時に2種類のウイルスを標的細胞に感染させ、G418とピューロマイシンを用いて選択を行なうことも可能でどちらかの方法により2重安定発現細胞株が得られる。Retro-X Tet-Off Advanced Systemの場合も同様の操作で行う。
Tet-Advancedシステムによる発現レベルは非常に高く、厳密に再現性よくコントロールされる(図3、図4)。図4のRetro-X Tet-Off Advanced Systemによりルシフェラーゼを導入したHeLa細胞株の例では、ルシフェラーゼの基底発現はDoxにより完璧に抑制され、Dox非存在下で培養した細胞は極めて高レベルでルシフェラーゼを発現している。
図3. 調節、応答ウイルスの量比による発現誘導レベル
Tet調節因子発現ベクター(pRetro-X Tet-Off Advancedベクター)とTet応答因子コントロールベクター(pRetro-X Tight Purベクターにルシフェラーゼ遺伝子を導入)から2種類のウイルスを調製し混合、量比を変えてHeLa細胞に感染させた。感染後、細胞をDoxを含有、非含有培地で48時間培養後、ルシフェラーゼアッセイを行った。Tet調節因子とTet応答因子の発現比(感染比)によって、異なる基底発現レベル、発現誘導レベルが得られた。
RLU:相対発光強度
図4. Retro-X Tet-Off Advanced Systemによる優れた発現調節レベル
Retro-X Tet-Off Advancedシステムを用いて、調節因子発現ウイルスをHeLa細胞株に導入後、さらにルシフェラーゼを発現する応答発現ウイルス(pRetro-X- Tight-Purベクターにルシフェラーゼ遺伝子を導入)を感染させた。感染後の細胞を、Doxを含有および非含有培地で48時間培養後、ルシフェラーゼアッセイを行った。 理想的なレトロウイルスベクターとパッケージング
各システムに含まれるCalPhos Mammalian Transfection Kit(製品コード 631312)により、パッケージング細胞への高効率トランスフェクションが可能である。
また、本システムはClontechのRetro-X Universal Packaging System(製品コード 631563;別売)と併用することができるため、標的細胞に宿主指向性を合わせたウイルスを極めて高い力価で産生できる。あらゆる細胞株または初代培養細胞において効率的な遺伝子導入が可能となる。
さらに、ウイルスベクターにはRetro-X Qテクノロジーの長所が盛り込まれている。ベクターの5’LTR内にある強力なCMV/MSVハイブリッドプロモーターはパッケージング細胞内では高力価ウイルスの産生に寄与するが、標的細胞内においてはプロウイルスが不活性化されてゲノムに組み込まれるようにデザインされている。PTight誘導プロモーターに対する干渉も回避される。
内容
Retro-X Tet-On (or Tet-Off) Advanced Inducible Expression System
(製品コード 632105)
・pRetroX-Tet-On Advanced VectorまたはpRetroX-Tet-Off Advanced Vector
・pRetroX-Tight-Pur Vector
・pRetroX-Tight-Pur-Luc Control Vector
・Tet System Approved FBS
・CalPhos Mammalian Transfection Kit
保存
#631034、632105:-20℃
#631530
GP2-293 Packaging Cell Line:液体窒素
その他のコンポーネント:-20℃
#631311:4℃