SMART-Seq mRNA HT(SSmRNA HT)は、10 pg~1 ng total RNAまたは1~100細胞から、Oligo(dT)プライマーを用いて高品質な全長cDNAを調製することができ、自動化装置にも対応したキットです。
逆転写とPCR増幅をワンステップで行うことができ、ハンズオンタイムが短く簡単なプロトコールで実験が可能です。FCMの下流実験にも使用できるようプロトコールが最適化されています。
本キットのcDNA合成ステップの核となるSMART(Switching Mechanism at 5' End of RNA Template)テクノロジーは、完全長の遺伝子カバレッジを得ることができ、スプライスジャンクションや細胞内の選択的スプライシングの解析を含む、シングルセルにおける遺伝子発現研究の強力なツールです。
本キットはOligo(dT)プライミングにより、高品質total RNA(RIN>8)またはインタクトな細胞からmRNAを特異的に増幅します。また、LNA(Locked Nucleic Acid)技術を取り入れることにより、テンプレートスイッチング効率を向上させ、他の手法よりも多くの遺伝子検出が可能になりました。
SMART-Seq mRNA HT LP(SSmRNA HT LP)は、cDNA合成のためのSSmRNA HTと、酵素による断片化およびステムループアダプターを組み込んだライブラリー調製キットが含まれており、イルミナ社次世代シーケンサー対応の高品質なライブラリー調製が可能です。また
Unique Dual Index Kit(別売り)と組み合わせることで、最大384サンプルのマルチプレックス解析に対応できます。断片化とアダプター付加の2ステップワークフローは、途中で精製工程が不要なため1チューブで完結でき、コンタミやサンプルロスを軽減し、約2時間でステップが完了します。これにより高収量なライブラリーが得られ、ハイスループットシーケンサーへの対応や再現性の高い解析が可能となります。
無料のバイオインフォマティクス解析ツールCogent NGSもご用意しており、サンプルからのcDNA合成、ライブラリー調製、データ解析までend-to-endのソリューションを提供いたします。
Cogent NGSソフトウェアは下記ページからダウンロードしてください。
Cogent NGS Analysis Pipeline(TB USA社)
Cogent NGS Discovery Software(TB USA社)
※以下のデータは、SSmRNA HT / HT LPと同じケミストリー・性能のSMART-Seq HT Kit(SS-HT)(製品コード 634455/634456/634437/634438/634436)とSMART-Seq HT PLUSキット(SS-HT PLUS)(製品コード R400748/R400749)で得たものを示しています。
図1. cDNA合成とライブラリー調製のワークフロー
図2. SMART-Seq v4 KitとSMART-Seq HT Kit のワークフローの比較
SMART-Seq HT(右)は、SMART-Seq v4のプロトコール(左)を改変することにより、簡便でハイスループットなワークフローで実験が可能。セルソーターによりシングルセルを取得した後、SMART-Seq v4 Kitの場合、6つのハンズオンステップが含まれるが、SMART-Seq HT Kitの場合は、3つのハンズオンステップのみで行うことができる。SMART-Seq HTワークフローの重要なステップは、効率的な逆転写およびPCR cDNA増幅のために最適化されたOne-Step RT-PCR Bufferを使用してOne-Step RT-PCRを行うことである。One-Step RT-PCR BufferはLysis Bufferを添加する必要がなく、AMPureビーズ精製が可能である。SMART-Seq HT Kitは、従来のSMART-Seq v4 Kitと同様に、シーケンス用のライブラリー調製(Nextera XT)の前に、調製したcDNAの検証(定量、サイズ分布)が必要である。
※SMART-Seq v4は後継品SMART-Seq mRNAシリーズと同じプロトコール・性能を示します。
図3. SMART-Seq HT KitとNextera XTとの比較
パネルA:SMART-Seq HT Kitを使用して10 pgのマウス脳total RNAからtriplicateでcDNAを合成した。次に、SMART-Seq Single Cell PLUS Kitに含まれるSMART-Seq Library Prep KitまたはNextera XT Kit(イルミナ社)を使用して、イルミナ社シーケンサー用のライブラリーを調製した。ライブラリーを4M paired-endリードにノーマライズし、NextSeq 500でシーケンスを行った。
パネルB:SMART-Seq HT PLUS KitはNextera XTより高収量のライブラリーが得られた。
パネルC:SMART-Seq HT PLUS Kitは、Nextera XTと比較して10%多くの遺伝子が同定できた。
図4.SMART-Seq v4 KitおよびSMART-Seq HT Kitで検出されたトランスクリプトのオーバーラップ
パネルA:マウス脳 total RNA10 pgからtriplicateでライブラリーを調製し、各キットの得られた収量やトランスクリプト数、マッピングされたリードの割合を表に示した。
パネルB:パネルAの数値をもとに、各キットのreplicate間で検出されたトランスクリプト(fragment per kilobase of exon per million reads mapped:FPKM>0.1)のオーバーラップ数について評価した結果、replicate間のトランスクリプトは両キットとも類似性が高いことが示された(SMART-Seq v4:61%、SMART-Seq HT:63%)。また、各キットの3つのreplicateで共通して検出されたトランスクリプトを互いに比較した結果、71%のオーバーラップ率を示した。オーバーラップしているトランスクリプトの発現量は平均37 FPKMであったのに対し、それぞれのキットでのみ検出されたトランスクリプトの発現量は平均6~7 FPKMと少なかったことから、低レベルで発現しているトランスクリプトは検出されにくいことが分かる。
図5. SMART-Seq v4 KitとSMART-Seq HT Kitを用いたGC含量の違いによる遺伝子発現レベルの比較
図3においてマウス脳のtotal RNA 10 pgから調製したライブラリーを、GC含有量についてさらに分析した(パネルA)。遺伝子をGC含量(≦36%、37~54%、≧55%)で分類し、スキャッタープロットを使用して各分類内の遺伝子の発現レベル(FPKM)の再現性を視覚化した。SMART-Seq v4(パネルB)とSMART-Seq HT Kit(パネルC)どちらを使用した場合も、それぞれのreplicate間において、遺伝子発現レベルに非常に高い再現性が見られた。またSMART-Seq v4 KitとSMART-Seq HT Kit間においても、高GC含量(
●)または低GC含量(
●)の遺伝子は同様の発現レベルを示した(パネルD)。このことからSMART-Seq HT Kitで採用されているOne-step RT-PCR反応は、逆転写とPCRを2ステップで行うSMART-Seq v4と比較しても、低GC含量および高GC含量遺伝子の増幅に影響がないことが示された。
図6. SMART-Seq v4 KitおよびSMART-Seq HT Kitを用いた、遺伝子発現データの再現性比較
SMART-Seq v4 Kit(SSv4_1~SSv4_12)およびSMART-Seq HT Kit (HT_1 to HT_9)を用いて、293T細胞の21個のシングルセルからライブラリーを調製し、各細胞から得られた遺伝子発現の再現性を評価した。
0.74から0.97のピアソン相関係数から階層的クラスタリングヒートマップを作成し、21個の細胞間のユークリッド距離を示した。
同一のキットで調製された細胞間で最も高い相関が見られるが、2つのキット間の相関関係も依然として非常に高く、ライブラリー調製方法によるクラスター化はしていないことが分かる。
これらのデータより、簡便ワークフローを採用したSMART-Seq HTはSMART-Seq v4と比較して、遺伝子発現解析において大きな偏りがないことが示された。
図7. SSmRNA HTとNextera XTから調製したライブラリーのリード分布の比較
SSmRNA HT LPを用いてマウス脳のtotal RNA 10 pgからtriplicateでcDNA合成を行った。ライブラリーはSMART-Seq Library Prep(SSmRNA HT LPのコンポーネント)とイルミナ社のNextera XTを用いて、cDNA 1 ngあるいは125 pgから調製し、NextSeq 500でシーケンスした。シーケンス結果は4M paired-endリードにノーマライズし、CLC Genomic Workbenchで解析を行った。
2キットからそれぞれ調製されたライブラリーからは、類似したリード分布が得られた。
図8. SSmRNA HT LPとNextera XTの遺伝子同定性能の比較
cDNA合成はSSmRNA HTで、ライブラリー調製はSMART-Seq Library Prep(SSmRNA HT LPのコンポーネント)とイルミナ社のNextera XTで調製し、比較した。ライブラリーはそれぞれduplicate(上図A1, A2)で調製した。
パネルA:SSmRNA HTとNextera XTで調製したライブラリーの全遺伝子のTPM(transcript per million)値を対数目盛でプロットし、相関係数を算出した。
パネルB:同じキットで調製されたライブラリー同士、またそれぞれのキットで調製されたライブラリーから同定された遺伝子をベン図で示した。どちらのキットで調製されたライブラリーも同様のTPMを示し、両キット間では12,311個の同じ遺伝子が同定された。