Aureobasidin A耐性酵母形質転換システムの原理
Aureobasidin Aは黒色酵母
Aureobasidium pullulans No. R106株の産生する抗真菌抗生物質である
1)。
S. cerevisiae、
Schizo. pombe、
C. albicans等の
Candida属、一部の
Aspergillus属に対して強い抗菌活性を持ち、清酒酵母、パン酵母等の実用酵母にも低濃度(0.1~0.4 μg/ml)で殺菌効果を示す。
AUR1-C遺伝子は、タカラバイオが
S. cerevisiaeより取得したAbA耐性遺伝子で、野生型の対立遺伝子
aur1遺伝子(第11染色体YKL004W)の2ヵ所のアミノ酸を遺伝子工学的に置換した変異遺伝子である。この変異導入により、
AUR1-C遺伝子はAbAに対して特異的な耐性を獲得する。同様に、
aur1 r遺伝子は
Schizo. pombeより、
aurA r遺伝子は
A. nidulansよりそれぞれ取得したAbA耐性遺伝子である。
これらAbA耐性遺伝子は優性的に働くため
2)、細胞内に1コピー存在するだけで耐性形質を発現し、また、コピー数に応じてAbA耐性度が上昇する。AbA耐性遺伝子を選択マーカーとして含有するプラスミドで形質転換した場合、形質転換体はAbA耐性クローンとして得られる。
なお、近年、Nagiecら
8)によりAureobasidin Aの作用機作が解明されている。それによれば、Aureobasidin Aは真菌のスフィンゴ脂質生合成系の酵素inositolphosphoryl-ceramide(IPC)synthaseの阻害剤であり、
aur1遺伝子はIPC synthaseをコードしていると考えられる。
<pAUR101を用いた酵母染色体への組込み>
pAUR101は導入遺伝子を酵母内で安定に保持させるための染色体組込型ベクターで、酵母内で自律的には複製できず、相同組換えにより染色体DNAに組込まれた場合にのみ保持される。
AUR1-C遺伝子内の制限酵素サイト(
Stu I、
BstP I、
EcoO65 I、
BsiW I)で1ヵ所切断した直鎖状プラスミドで形質転換することにより、第11染色体上の
AUR1-C対立遺伝子の位置で効率よく酵母染色体への組込みが起こる。この方法により、染色体上の他の遺伝子に影響を及ぼすことなく外来遺伝子を導入した形質転換体が得られる。pAUR101は
E. coliでの選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子 Amp
r、
S. cerevisiaeでの選択マーカーとしてAureobasidin A耐性遺伝子
AUR1-Cを保持している。
<pAUR112を用いた形質転換>
pAUR112は
S. cerevisiae由来のARS1/CEN4を有するため、分裂安定性があり、
S. cerevisiaeの形質転換体中で安定にプラスミド状態(コピー数:1~数個)で保持される。
pAUR112は
E. coliでの選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子 Amp
r、
S. cerevisiaeの選択マーカーとしてAureobasidin A耐性遺伝子
AUR1-Cおよび
URA3遺伝子を保持している。
<pAUR123を用いた形質転換>
pAUR123は自律複製型ベクター
pAUR112由来のタンパク発現用ベクターである。
pAUR112と同様、
S. cerevisiaeの形質転換体中で自律複製し、安定にプラスミド状態で保持される。発現用プロモーターとして
S. cerevisiaeのアルコール脱水素酵素遺伝子
ADH1のプロモーターを含んでいるので、発現させたい遺伝子を開始コドンATGを含む形で
pAUR123のマルチクローニングサイトに挿入すると、形質転換体は構成的に挿入遺伝子を発現する。ただしADH1プロモータは高発現タイプのプロモータではないので、タンパク質の高発現は期待できない。
pAUR123は
E. coliでの選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子 Amp
r、
S. cerevisiaeでの選択マーカーとしてAureobasidin A耐性遺伝子
AUR1-Cを保持している。
<pAUR135を用いた形質転換>
pAUR135は、ひとつの選択マーカー
AUR1-Cで繰り返し形質転換を行うためのマーカー除去型ベクターであり、このベクターを用いて取得した
S. cerevisiae形質転換体から簡便な方法で選択マーカーを含むベクター配列が除去されたクローンを選別することができる。
pAUR135には、形質転換体選択マーカーとしての
AUR1-C遺伝子と、マーカー除去株選別用としてのGAL10プロモーターに連結したGIN11M86配列が含まれている。GIN11M86は高発現にすると生育阻害を引き起こす自殺活性を有している。
pAUR135による形質転換で得られたAbA耐性の形質転換体をガラクトース培地に移すと、GAL10プロモーター活性が誘導され、GIN11M86が高発現となる。このとき、GIN11M86を含むほとんどの形質転換体が生育阻害を受けるが、低頻度の相同組換えにより生じた
AUR1-Cマーカーを含むベクター領域が除去された株のみが優先的に生育してくる。これには、AbA感受性の目的の形質転換体と元に復帰した株とが含まれる。したがって、
pAUR135は再び形質転換に使用できる。また、
AUR1-Cマーカーだけでなくベクター配列も除かれるため、実用酵母の育種において不用配列が残る不安を軽減できる。
pAUR135は、変異導入や遺伝子機能の破壊などに使用できる。
<pAUR224を用いた形質転換>
pAUR224は
Schizo. pombe由来のAbA耐性遺伝子である
aur1 r11)を選択マーカーとして含む、
Shizo. pombeを宿主とするタンパク発現用ベクターである。発現用プロモーターとしてサイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーターとSV40由来のポリ(A)シグナル配列を含んでいる。
<pAUR316を用いた形質転換>
pAUR316は、
Aspergillus nidulans内でプラスミド状態で維持できるAspergillus菌シャトルベクターである。大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子Amp
rを、また、
A. nidulansでの選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子
aurArをもち、自律複製のためのAMA1配列を含んでいる。
<pAUR Primers>
pAUR123および
pAUR224にはそれぞれのベクターのクローニングサイト近傍にアニーリングするプライマーとして、
pAUR123 F、同R、および
pAUR224 F、同Rが設定されており、クローニングされたDNA塩基配列のシーケンス確認やFとR Primerを組合せてPCR法によりインサート配列を増幅させることができる。
Aureobasidin A耐性酵母形質転換システムの原理図
pAUR101 DNAを用いた酵母染色体への組込み |
pAUR112, pAUR123, pAUR224, pAUR316 DNAを用いた形質転換 |