RetroNectin(リコンビナントヒトフィブロネクチンCH-296)
1)は、ヒトフィブロネクチンの細胞接着ドメイン(C-domain)、ヘパリン結合ドメイン(H-domain)およびCS-1部位の3種類の機能性ドメインを含む組換えタンパク質
*1である。
RetroNectinはインテグリンVLA-4、VLA-5を発現している哺乳類細胞に対してレトロウイルスベクター
*2を介した遺伝子導入を行う際に有用である。VLA-4を発現している細胞はCS-1部位と、またVLA-5を発現している細胞は細胞接着ドメイン(RGDS 配列)と接着し、一方、ウイルスベクターはヘパリン結合ドメイン(Type III repeat, 12, 13, 14)に結合することによってRetroNectin上に共配置される。これにより、局所的に両者の濃度が高められ、遺伝子導入が促進されると考えられる(図1)。
*1 分子量62,613(アミノ酸配列より)
*2 レンチウイルスベクターを介した遺伝子導入を行う際にも有用です。
RetroNectin Dishは、RetroNectinを35 mm dishにあらかじめコーティングしたものである。コーティング操作が不要となり、一定の遺伝子導入効率を得ることができる。
図1.フィブロネクチンとレトロネクチンの構造およびレトロネクチンでの遺伝子導入のモデル図
標的細胞には(1)Supernatant法、または(2)RBV(RetroNectin-bound virus)法により遺伝子を導入する。
(1)Supernatant法
細胞とウイルスを混合してRetroNectinコートプレート上で感染させる方法である。簡便に短時間でRetroNectinを用いたウイルスベクターによる遺伝子導入を行うことができる。(図2)
図2.Supernatant法
(2)RBV法(改良法)
組換えレトロウイルスを先にRetroNectinコートプレートに吸着させ、感染阻害物質を含むレトロウイルス液を除いた後に細胞を加える方法である。RBV法はレトロウイルスベクターを介した遺伝子導入を行う際に、プロデューサー細胞から分泌されるプロテオグリカンやレトロウイルス包膜タンパク質などの物質が存在すると導入効率に影響を与えるため、組換えレトロウイルスを感染させるときにはこれらの阻害物質を除いておくことが重要であることから改良された方法である。Supernatant法で十分な遺伝子導入効率が得られない場合、RBV法を用いることを推奨する。特に、高濃度にウイルス液を使用する場合、より高い効果を発揮する。(図3)
図3.RBV法
培養バッグを用いたラージスケールのウイルス感染方法(RBV-LTS法)の詳細はこちら。
さらに、RetroNectinはTリンパ球の培養を増強する効果も有する。
T細胞の拡大培養は、通常、抗CD3抗体刺激によりインターロイキン-2(IL-2)の存在下で行う。このときRetroNectinを共存させることで拡大培養効率が格段に増大する(実験例参照)。また、得られたT細胞集団中には未分化な細胞であるナイーブT細胞が多く含まれる。ナイーブT細胞は、抗原提示を受け細胞傷害性T細胞に分化する能力をもつ。
図4.レトロウイルスベクターを用いた3種類の幹細胞への遺伝子導入例
蛍光タンパク質発現レトロウイルスベクターをRetroNectin法、Polybrene法、Protamine法を用いて各細胞に遺伝子導入した。
図5.レンチウイルスベクターを用いた浮遊系培養細胞(SUP-T1)への遺伝子導入例
蛍光タンパク質発現レンチウイルスベクターをSupernatant法(静置感染/遠心感染)、RBV-Spin法、Polybrene法を用いて各細胞に遺伝子導入した。
RetroNectinは、20~100 μg/mlの濃度で4~20 μg/cm
2となるようプレートにコーティングする。直径3.5 cmのディッシュ(10 cm
2)の場合には1ディッシュあたり2 mlのRetroNectinの希釈溶液(20~100 μg/ml)を加えればよい。よって、1バイアル(0.5 mg protein)で2~12ディッシュ分をコートすることができる。
プロトコルの詳細はこちら