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Q1 pCold DNAを利用するとタンパク質が低温で効率よく発現する理由は?
A1 pCold DNAは、コールドショックタンパク質をコードするcspA遺伝子をベースに構築されており、cspAプロモーター、5’UTR、cspAタンパク質のN末端をコードする部分を含んでいます。
cspAプロモーターからの転写は37℃でも行われますが、その下流の5’UTR が37℃では非常に不安定なため、効率的な翻訳は行われません。しかし、温度を37℃から15℃に低下させると、5’UTRの構造が非常に安定となり、その結果、翻訳効率が上昇し、低温(15℃)で非常に効率よくタンパク質の合成が行われます1)。
さらに、転写によってcspAタンパク質のN末端の一部をコードするmRNAが生成すると、そのmRNAの翻訳にリボソームが優先的に使用され、他のmRNAの翻訳にはリボソームがあまり供給されなくなります(リボソームトラップ現象)2)。
このようにpCold DNAは、低温でも転写活性が落ちないcspAプロモーターと5’UTRの低温での構造安定性、およびリボソームトラップ現象により、低温で非常に効率よくタンパク質発現を行うことができます。低温でのタンパク質発現は従来から行われていましたが、pCold DNAはこれまでの発現ベクターにない上記の特徴をもつ、低温でのタンパク質発現に適したユニークな発現ベクターです。
1)Mitta, M., et al.(1997)Mol. Microbiol., 26, 321-335.
2)Xia, B., et al.(2001)J. Biol. Chem., 276, 35581-35588.
Q2 pCold DNAで発現が認められない場合、何を検討したらよいか?
A2 用いるベクターの種類や宿主、培養・誘導条件をご検討ください。
- ベクターの種類(pCold I~IV DNA、pCold TF DNA、pCold ProS2 DNA、pCold GST DNA)を変更:N末端にTEE配列やHisタグ配列を付けると発現することがあります。大腸菌シャペロンの一種であるトリガーファクター(TF)を可溶化タグとするpCold TF DNAや独自の可溶化タグProS2を含むpCold ProS2 DNA、GSTを可溶化タグとして用いるpCold GST DNAは特に有効です。
- コドンの使用頻度を確認:遺伝子によってはコドン使用頻度の影響を受ける場合があります。また、レアコドンに対応した市販の大腸菌株(Rosetta 2など)を使用することで改善される場合もあります。
- 前培養の有無や発現クローンの保存方法が影響することがあります(Q8 参照)。
- コールドショック誘導のタイミングを検討:誘導のタイミングが遅いと発現量が低下する場合があり、誘導時期を早くすると改善されることがあります。
- IPTGを加える前の冷却は十分に行い(標準的には15℃で30分間以上)、IPTG添加後も15℃で培養してください。
Q3 pCold DNAを用いて発現したタンパク質が不溶化した。何を検討したらいいか?
A3 最適な培養条件、誘導条件は目的タンパク質によって異なります。誘導のタイミング(対数期初期~対数期後期)、IPTG 濃度(0.1~1 mM)、15℃での培養時間(12~48時間;通常24時間が最適)などの検討で発現が改善する場合もありますが、発現タンパク質の不溶化に対しては、宿主大腸菌やベクターの変更や抽出方法の検討が有効な手段となります。
以下の点を参考にしてご検討ください。
Q4 発現可能なタンパク質の分子量は?
A4 数kDaから100 kDaのタンパク質を発現させた実績があります。
Q5 発現実績のある遺伝子の生物種は?
A5 大腸菌、好熱菌、超好熱菌、ヒト、マウス、植物などです。
Q6 pColdベクターシリーズの選択基準は?
A6 pCold I、II、III DNAに含まれるTEE配列は目的遺伝子の翻訳を促進します。Hisタグ配列をもつpCold I、II DNAを利用すれば、Hisタグを利用した目的タンパク質のアフィニティー精製が可能です。目的タンパク質のN末端に余分なアミノ酸配列が付加されることが望ましくない場合は、タグ配列をFactor Xaで切断することができるpCold I DNA、あるいはTEE配列やタグ配列がないpCold IV DNAをお勧めします。pCold I~IV DNAで目的タンパク質が発現しなかった場合や可溶化しなかった場合には、可溶化タグと融合発現を行うpCold TF DNA、pCold ProS2 DNAやpCold GST DNAをお試しください。
Q7 培地1 Lあたりの発現量は?
A7 目的遺伝子によって異なりますが、通常は数mg~数十mg/L程度になります。小スケールで発現テストを行い、粗抽出液を用いてSDS電気泳動を行い、CBB染色で目的タンパク質の発現が確認できるレベルであれば、3 L程度の培養でmg単位の精製タンパク質が回収できます。
Q8 目的遺伝子を挿入したpColdベクターで形質転換した大腸菌を、プレート上で4℃保存できるか?
A8 プレート上で4℃保存することはお勧めできません。目的遺伝子を挿入したpColdベクターで形質転換した大腸菌をプレート上で4℃保存すると、目的タンパク質が漏出し、pColdベクターを維持できない可能性があります。できるだけ早くピックアップしてグリセロールストックを調製し、-80℃で保存することをお勧めします。
Q9 Chaperone Plasmid Setを利用した共役発現を行う際、5種類あるシャペロンプラスミドの選択の目安は?
A9 シャペロンとの相性は目的タンパク質によって異なりますので、5種類すべてで検討を行うことをお勧めします。しかしながら、pColdベクターを用いた発現系では、通常、tig配列を含むシャペロンチームとの共役発現でより良い結果が得られる傾向があります。まず、pG-Tf 2またはpTf16との共役発現からご検討ください。
Q10 誘導後、15℃で24時間培養した場合、OD
600はどのくらいまで上がるか?
A10 本システムを用いて培養した場合のOD600は、宿主大腸菌株や、挿入した目的遺伝子の種類によって異なりますが、BL21を宿主に用いた場合、1.2前後になります。
Q11 pCold DNAでの発現に適した宿主は?また、pETベクターで発現用宿主として用いるDE3を含む宿主は使用可能か?
Q12 pColdベクター発現系では、培養温度を低温にすることで目的タンパク質の発現が誘導されるはずであるが、誘導時にIPTGを加えるわけは?
A12 pColdベクターはコールドショックタンパク質のプロモーターを使用しておりますので、本来は37℃では目的タンパク質はほとんど発現しません。しかし、インサートによっては微量の漏れが生じる場合があるため、補助的にlacオペロンによる制御系を用いております。
pETベクターの場合では、発現のオンオフはIPTGの添加のみによって行うため、IPTG無添加で発現が制御されるかどうかは重要な問題となります。一方、pColdベクターの場合では、誘導は温度変化によって行うため、低
温にシフトさせた後にlacオペロンの制御がかかっているかどうかは重要な問題ではありませんが、少しでも制御がかかっていると不都合ですのでIPTGの添加は必要になります。
lacオペロンの制御の強さは、使用する宿主大腸菌の種類によっても変わります。JM109などlac I qをもつものと、BL21など本来大腸菌がもつlac Iのみで制御しているものとでは制御の強さは変わると思われます。しかし、低温にシフトさせた後の制御の強さは重要な問題ではありませんので、特にlac I qをもつ菌株を選ぶ必要はないと思われます。
Q13 pCold TF DNAで融合発現させた目的タンパク質で、プロテアーゼ処理後のSDS-PAGEでは切断が確認できたにも関わらず、目的タンパク質からTFタグが離れない。
A13 目的タンパク質の性状によっては、プロテアーゼで切断後も目的タンパク質とTFタグが相互作用するケースがあります。不溶性になりやすいタンパク質では特にこの傾向が強いようです。解決法としては、切断時に可溶性度を改善する試薬を加えることが考えられます。候補には1% Triton X-100、0.5 M アルギニン、5 mM DTT、20 mM CHAPS などがあります。万能な条件はありませんので、目的タンパク質にあわせてご検討ください。
ただ、目的タンパク質とTFの相互作用が強固な場合は、両者が解離せず、目的タンパク質を単離できないことも
あります。
なお、Protein S由来のProS2可溶化タグをもつpCold ProS2 DNAでは、ProS2タグと目的タンパク質との相互作用が弱いため、プロテアーゼ処理後の目的タンパク質とProS2タグの分離が比較的容易です。
Q14 pCold TF DNAやpCold ProS2 DNAで発現した融合タンパク質を用いて抗体作製を行いたいが?
A14 抗体作製用タンパク質の発現にはpCold ProS2 DNAをご利用ください。ProS2融合タンパク質をウサギに免疫し、抗血清を調製することも可能ですが、プロテアーゼでProS2タグを切断した目的タンパク質を抗原として利用することをお勧めします。
一方、TF融合タンパク質をウサギに免疫すると、抗血清がTFタグに対して非常に強い反応性を示す場合があります。TF融合タンパク質に対する抗体を調製する場合には、免疫動物としてモルモットの使用をお勧めします。プロテアーゼ処理でTFタグを切断し、タグを含まない目的タンパク質を精製すれば、ウサギへの免疫にも使用できますが、Q13のようにTFタグの除去が難しい場合がありますのでご注意ください。
Q15 pCold DNAとシャペロンプラスミドとの共役発現系から、発現したシャペロンを除く方法は?
A15 Hisタグ配列をもつベクター(pCold I、II DNA)を利用し、Hisタグを利用して目的タンパク質のアフィニティー精製を行うことで、シャペロンを取り除く方法をお勧めします。
Q16 誘導のため、37℃から15℃に冷却するが、温度は急に下げたほうがいいか?
A16 37℃から15℃まで温度を下げる操作はできるだけ短時間で行ってください。例えば、氷水に培養容器を浸して15℃まで冷却する方法などがお勧めです。培養液量が多い場合は培地の温度が不均一となる可能性があります。念のため15℃に達した後、さらに30分間放置してください。
Q17 pCold DNAに目的遺伝子をクローニングしたいが、マルチクローニングサイトに適切な制限酵素サイトがない。
A17 Clontech社の
In-Fusion HD Cloning Kit(製品コード 639616 ほか)をご利用ください。本キットを
用いると、適切な制限酵素サイトが存在しない場合でも、線状化ベクターと、ベクター末端の15塩基を付加した目的DNA増幅用プライマーを用いてPCR産物を調製するだけで、余分な配列をいっさい付加せずに簡単・迅速にディレクショナルクローニングが行え、大変便利です。なお、pCold TF DNA、pCold ProS2 DNAやpCold GST DNAのマルチクローニングサイトは、pCold I~IV DNA のマルチクローニングサイトと配列が同じですので、制限酵素処理による目的遺伝子の乗せ替えをスムーズに行うことができます。
Q18 Hisタグ融合タンパクを精製する場合は、どの精製カラムを使えばいいか?
A18 Clontech社のTALONレジンはCo2+ベースのレジンでHisタグ融合タンパク質に対して高い特異性、親和性を示すため、非特異的な吸着による夾雑タンパク質の混入が抑えられ、Hisタグ融合タンパク質を高純度に精製できます。結晶構造解析、活性測定などの用途に最適です。また、His60 Ni Superflow ResinはNi2+ベースのレジンで、非常に高い結合容量(最大60 mg Hisタグ融合タンパク質/mlレジン)をもち、1ステップでの精製が可能です。高収量が必要な用途にお勧めで、標識化や抗体作製用抗原などに使用できます。用途にあわせて選択してください。
Single Protein Production System (SPP System™)