pHEK293 Ultra Expression Vectorは、ヒトHEK293系細胞(HEK293、HEK293Tなど)で組換えタンパク質を一過性に高生産することができるプラスミドベクターである。本製品を使用することで、従来のサイトメガロウイルス由来プロモーターを用いた遺伝子発現と比較して、2~10倍量の組換えタンパク質の生産が可能である。
1ベクタータイプのpHEK293 Ultra Expression Vector I(製品コード 3390)は、HEK293系細胞にトランスフェクションして、簡便に目的遺伝子を高発現することができる。
一方、2ベクタータイプのpHEK293 Ultra Expression Vector II(製品コード 3392)は、添付のpHEK293 Enhancer Vectorと共にHEK293系細胞にコトランスフェクションして、目的遺伝子を高発現させる。目的タンパク質にあわせてトランスフェクションする2種類のプラスミドの比率を最適化することで、より効率的な目的タンパク質の生産が可能になる。
注: | 本製品はHEK293系細胞での高発現用ベクターです。ヒト以外の哺乳類細胞では本製品の効果が十分に発揮できないことがあります。 |
pHEK293 Ultra Expression Vector I(製品コード 3390)
pHEK293 Ultra Expression Vector Iには、サイトメガロウイルス由来プロモーター(CMV IE promoter)、Trans Activation Responsive region(TAR)をコードする配列、マルチクローニングサイト(MCS)、Internal Ribosome Entry Site(IRES)、Trans AcTivator(Tat)遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼのポリAシグナル(HSV TK polyA)が搭載されている。MCSに目的遺伝子を挿入し、HEK293系細胞にトランスフェクションすることで、目的タンパク質を一過性に高発現することができる。
pHEK293 Ultra Expression Vector II(製品コード 3392)
pHEK293 Ultra Expression Vector IIには、サイトメガロウイルス由来プロモーター(CMV IE promoter)、TARをコードする配列、マルチクローニングサイト(MCS)、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼのポリAシグナル(HSV TK polyA)が搭載されている。さらに、Tat供給用のプラスミドべクターとして、pHEK293 Enhancer Vectorが添付されている。pHEK293 Ultra Expression Vector IIのMCSに目的遺伝子を挿入し、pHEK293 Enhancer VectorとともにHEK293系細胞にコトランスフェクションすることで、目的タンパク質を一過性に高発現することができる。なお、コトランスフェクションに使用するpHEK293 Ultra Expression Vector IIとpHEK293 Enhancer Vectorの使用比率は目的タンパク質に応じて最適化することができる。
本製品は、エイズウイルスゲノム由来のRNA配列であるTARと、転写活性化因子であるTatによる高発現システム(TAR-Tat発現システム)を利用している(図1)。HIV-LTRからの転写活性化は、TatがウイルスRNAの5’末端に形成されるTARと呼ばれるループ構造に結合し、RNA polymerase IIをリン酸化することで行われる。本製品はこの原理を利用して、目的タンパク質およびTat発現用ベクター(IIの場合は、目的タンパク質発現用ベクターとTat発現用ベクター)の5’側非翻訳領域にTARをコードする配列を付加している。これにより、Tatタンパク質の効率的な発現が可能となり、目的タンパク質の発現量を大幅に向上させることができる(図2、図3:特許出願中)。なお、TAR配列は非翻訳領域に位置しているので、原理上、目的タンパク質のアミノ酸配列への影響はない。
図1.TAR-Tat 発現システムの原理
図2.pHEK293 Ultra Expression Vector I(製品コード 3390)を用いた目的タンパク質の発現
図3.pHEK293 Ultra Expression Vector II(製品コード 3392)を用いた目的タンパク質の発現
図4.pHEK293 Ultra Expression Vector Iのベクターマップ
図5.pHEK293 Ultra Expression Vector IIのベクターマップ
図6.pHEK293 Enhancer Vectorのベクターマップ