Bacillus subtilisを宿主とする組換えタンパク質の生産は、可溶化発現および分泌発現に優れている。特にS-S結合などの複雑な構造をもつタンパク質に有効である。さらに大腸菌を宿主とした発現系とは異なり、エンドトキシンが産生タンパク質中には混入しない。このような利点がある一方で、異種タンパク質の分泌効率はシグナルペプチドのタイプに大きく影響されることがT. Eggertらのグループによって報告されている。タカラバイオでは、
B. subtilisによる効率の良い分泌発現系の構築・スクリーニングを行うためのシステムを開発した。本システムでは、
B. subtilis由来の173種類の分泌シグナルペプチドの中から、目的タンパク質の分泌発現に適したシグナルペプチドをスクリーニングすることが可能である。また、
B. subtilisのプラスミドはコピー数が非常に少ないため、
B. subtilis中でのプラスミド構築が困難であるという問題があるが、本システムのpBE-S DNA は
E. coliと
B. subtilisのシャトルベクターであり、大腸菌で発現プラスミドを構築することができる。
本システムには、
B. subtilisの分泌シグナルペプチドDNAライブラリーであるSP DNA mixture、
B. subtilis-E. coliシャトルベクターpBE-S DNAおよびタンパク質発現用宿主
B. subtilis RIK1285株が含まれている。SP DNA mixtureは、173種類の
B. subtilis由来分泌シグナルペプチドをコードするDNA断片(In-Fusionクローニング用)の混合物である。pBE-S DNAには、
B. subtilisにおいて機能するpUB110由来の複製ori(pUBori)とカナマイシン耐性遺伝子(Kan
r)、
E. coliにおいて機能するpUC由来の複製ori(ColE1
ori)とアンピシリン耐性遺伝子(Amp
r)が含まれている。さらに、
B. subtilis由来のサブチリシンのプロモーター(
aprE promoter)と分泌シグナルペプチド(
aprE SP)を含み、その下流にマルチクローニングサイト(MCS)ならびにHisタグ配列が配置されている。MCSに目的遺伝子を挿入したpBE-S DNAを制限酵素
Mlu Iと
Eco52 I(
Xma III)で切断して線状化した後、Clontech社のIn-Fusionクローニングシステムで、aprE SPの代わりにSP DNA mixture中の173種類の分泌シグナルペプチドDNAのライブラリーを導入することにより(図1参照)、目的タンパク質に適した高分泌発現系のスクリーニングが可能である。なお、MCSは大腸菌コールドショック発現系
pColdベクター(製品コード 3360~3365, 3371, 3372)と同じ配列のため、容易に目的遺伝子の乗せ換えを行うことができる。本キットに添付の宿主
B. subtilis RIK1285株は、2種類のプロテアーゼ産生能を欠損しており、目的タンパク質の分泌発現に適している。