タカラバイオではニュージャージー医科歯科大学の井上正順教授と共同研究を行い、新規で有用な大腸菌コールドショック発現ベクターpCold DNAシリーズを開発した。大腸菌の培養中に培養温度を低温にシフトさせると、菌の生育は一時的に停止し大部分の大腸菌タンパク質の発現は減少するが、コールドショックタンパク質と呼ばれる一連のタンパク質は特異的に発現が誘導される。pColdベクターは大腸菌コールドショック遺伝子の一つである
cspAのプロモーターを利用したコールドショック発現ベクターで、従来の大腸菌発現系と比較して、発現できる確率や発現産物の可溶性度を向上させることができる
1)。低温発現のため、他の大腸菌由来のタンパク質の発現が抑えられ、純度の高い目的タンパク質を得ることが可能である。
今回、井上正順教授との新たな共同研究により、コールドショックベクターをベースとして、グラム陰性の粘液細菌
Myxococcus xanthus由来のProtein S
2)を可溶化タグとして利用する発現ベクターpCold ProS2 DNAが開発された。173アミノ酸残基で構成されるProtein Sは
Myxococcus xanthusの形成する胞子の外殻に存在しており、非常に安定な可溶性タンパク質である。Protein SのNTD(N-terminal domain)をタンデムに2つ繋いだProS2タグ(約23 kDa)を目的タンパク質のN末端側に融合発現させることで、融合タンパク質の安定性、可溶性の向上が期待できる。また、目的タンパク質との相互作用が低いため、目的タンパク質部分と可溶化タグ(ProS2)との効率的な分離が可能となる。
本ベクターは、
cspAプロモーターの下流に5’非翻訳領域(5’UTR)とtranslation enhancing element(TEE)、Hisタグ、ProS2タグ、multicloning site(MCS)などが配置されている。TEEには翻訳を促進する作用があり、Hisタグは発現タンパク質の精製に利用できる。また、プロモーターの下流には発現を厳密に制御するための
lac operatorが挿入されている。
さらに、ProS2タグとMCSの間にはHRV 3C Protease、Thrombin、Factor Xaの認識配列があり、発現後の融合タンパク質からタグを除去できる。
pCold ProS2 DNAは大腸菌のプロモーターを用いているため、他のpCold DNAシリーズと同様に、ほとんどの大腸菌株を発現用宿主として利用することができる。
pCold ProS2 DNAを利用すればコールドショックベクターの高効率なタンパク発現能とProS2の可溶化タグ機能および効率的な分離を用いた発現・精製系の構築が可能である。
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