PrimeSTAR® GXL DNA Polymerase

快適なPCRのために

PCR酵素選択フローチャート

PCRの基礎編

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Q1 プライマー設計で注意することは?
A1 以下の点を考慮してプライマーを設計してください。
  • 通常は20~25 merのプライマーを使用します。PCR条件に適したTm値のプライマーを設計することが大切です。詳細は各製品の取扱説明書をご参照ください。
  • 10 kb以上の長鎖を増幅する場合、25~35 merのプライマーで良い結果が得られる場合があります。また、Tm値(下記の式*1で計算)が65℃以上になるようにプライマー設計ソフト*2を利用して設計することをお勧めします。
  • GC含量が50~60%となるようにし、プライマーの3’側10塩基のGC含量が高くならないように配慮することで、より特異的な増幅が期待できます。また、3’末端の塩基はミスプライミングの頻度が高いTを避けることをお勧めします。
  • ForwardプライマーとReverseプライマーがアニーリングしないように設計してください。特に3’末端で3塩基以上が相補的な配列にならないように注意してください。また、ForwardプライマーとReverseプライマーのTm値はなるべく揃うように設計してください。
  • プライマー内での二次構造形成を避けるため、自己相補的な配列を含まないよう注意してください。
  • GCリッチなターゲットの場合、Tm値が60℃を超えるプライマーを推奨します。
  • 異なるプライマー対を用いた複数の増幅反応を同一条件で行いたい場合は、使用酵素、PCR条件に合わせてTm値が適切になるよう各プライマーを設計することをお勧めします。
*1 Tm値の計算方法
Tm値(℃)=2(nA+nT)+4(nC+nG)+35-2(nA+nT+nC+nG)
*2 プライマー設計用ソフト
Primer3(http://www-genome.wi.mit.edu/ftp/distribution/software/)OLIGO Primer Analysis Software(Molecular Biology Insights社)
Q2 最適な鋳型量は?
A2 ゲノムDNA やプラスミドDNA、逆転写産物など用いる鋳型の種類によって、PCRに適した鋳型量は異なります。
特にPrimeSTAR HS DNA Polymerase(製品コード R010A/B)の場合には、過剰量の鋳型が増幅を阻害する傾向がありますのでご注意ください。また、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品コード R045A/B)については鋳型の種類や量、質に応じて反応条件を調整することにより柔軟に対応することが可能です。
以下に標準的な鋳型推奨量を示します。
(50 μl反応系)
・ヒトゲノムDNA:5~200 ng
・E. coli ゲノムDNA:100 pg~100 ng
・cDNA ライブラリー:1~200 ng
・λDNA:10 pg~10 ng
・プラスミドDNA:10 pg~1 ng
Q3 PCR条件で注意することは?
A3 以下の点を考慮してください。
  • PCRサイクル前のプレヒート(初期変性)について
    MightyAmp DNA Polymerase Ver.3(製品コード R076A/B)には98℃までポリメラーゼ活性を抑制する強力な抗体を使用しているため、98℃ 2分のプレヒートが必要です。
    上記以外のタカラバイオのPCR酵素では活性化のためのプレヒートは必要ありません。ゲノムDNA等の複雑な鋳型の変性のために必要に応じてプレヒートを行う場合も、94℃ 1分で十分です。過度の加熱処理は酵素失活の原因となります。
  • 変性条件について
    変性条件はサーマルサイクラーの機種とチューブの種類を考慮して設定してください。設定の目安としては94℃の場合は20~30秒、98℃の場合は5~10秒です。Taq系試薬(TaqEx TaqLA Taq、Dye入り試薬、SpeedSTAR)をTakara機種で使用した場合は、98℃ 10 secを推奨します。他社機種(設定温度より温度が高くなりやすい機種)を使用する場合は、94℃ 30 Secを推奨します。
    より耐熱性に優れるPrimeSTARシリーズの場合は、98℃ 5~10秒の高温短時間の変性条件をお勧めします。
    TaKaRa Taq HS Perfect Mix(製品コード R300A/B)およびTaKaRa Taq HS Low DNA(製品コード R090A)の場合、変性条件は必ず94℃ 5秒に設定してください。95℃以上の設定では、酵素の失活による反応性低下が起こり、増幅産物が得られない場合があります。
  • アニーリング条件について
    アニーリング条件により増幅効率と増幅の特異性が変化します。プライマーのTm値に対し低すぎるアニーリング温度を設定すると、ミスプライミングに起因する非特異的増幅産物やスメアが増加し、目的増幅産物が減少する場合があります。プライマーのTm値に対し高すぎるアニーリング温度を設定すると、プライミング効率が低下し目的増幅産物が減少します。プライマーのTm値を考慮してアニーリング温度を調整したり、2 step PCRを行うことにより増幅の効率や特異性をより改善できる場合があります。
    Taqシリーズの場合、アニーリング時間は30秒をお勧めします。プライミング効率に優れるPrimeSTARシリーズの場合は、5~15秒の短いアニーリング時間に設定することが重要です。アニーリング時間が長すぎるとミスプライミングに起因する非特異的増幅産物やスメアが現れる場合があります。
    1 kb以下の短い鎖長を増幅する場合、3 step PCRをお勧めします。GCリッチなターゲットや10 kbを超える長鎖を増幅する場合には、2 step PCRをお勧めします。

推奨酵素編

Q4 正確性に優れた酵素は?
A4 PrimeSTARシリーズの酵素は、いずれもHigh Fidelity PCR酵素の標準であるPfu DNA Polymeraseの正確性を上回ります。
中でもPrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品コード R045A)は究極の正確性を示し、pUC119全長をPCR増幅した産物をクローニング後、配列解析を行った結果、370,656塩基中変異はわずか4塩基でした(エラー率0.00108%)。
さらに本酵素は他の酵素に比べ、リピート配列に対する複製の正確性が格段に向上しており、類似配列における鋳型の交換反応(キメラ分子の形成)の頻度が低い酵素です(BIO VIEW55号参照)。
Q5 GC含量が高いターゲット配列の増幅に最適な酵素は?
A5 以下の順番で酵素を選択してください。
  • 1st Choice
    細菌ゲノムDNAなどGC含量が高いと予想されるターゲット配列にはTks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)が有効です。GC含量が70%を超えるGCリッチな領域に対しても、優れた反応性を示し、よりバックグラウンドの少ない特異性の高い増幅が可能です。
  • 2nd Choice
    エラーの少ない正確性に優れた増幅を要求される場合は、PrimeSTARシリーズの中で最もGCリッチな鋳型に強いPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B) DNA Polymerase(製品コード R050A/B)が有効です。
  • 3nd Choice
    ターゲットによっては、TaKaRa LA Taq with GC Buffer(製品コード RR02AG/BG)が適している場合があります。GC Buffer I、GC Buffer IIの順でお試しください。GC Buffer Iを用いた場合、長い領域の増幅が可能です。
    一方、GC Buffer IIは増幅サイズには限界がありますが、複雑で強固な高次構造を持つ鋳型をターゲットとする場合に有効です。
Q6 長鎖の増幅に適した酵素は?
A6 6 kbを超える鎖長を正確に増幅したい場合には、Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)またはPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)の使用をお勧めします。これらの酵素では、ヒトゲノムDNAを鋳型とした場合、30 kbの増幅を確認しています。これらの酵素で増幅しない場合やより高い増幅効率を求める場合はTaKaRa LA Taq(製品コード RR002A/B)をお勧めします。
Q7 短時間でPCRを終了するのに適した酵素は?
A7 PrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品コード R045A/B)PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)SapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)がお勧めです。タカラバイオ独自の伸長因子を含有しプライミング効率に優れたPrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品コード R045A/B)は伸長時間を5秒/kb、アニーリング時間を5秒に設定することができ、世界最高レベルの反応速度を実現できます。PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)は高速PCRプロトコールにより10秒~20秒/kbに伸長時間を設定できるため、長鎖の増幅においても極めて短時間でPCR増幅が可能です。SapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)は反応効率に優れ、10秒/kbの伸長時間の設定で確実にPCR増幅ができます
Q8 AT 含量が高いターゲット配列を増幅する場合に最適な酵素は?
A8 イントロンを含むゲノムDNAなどAT含量が高いと予想されるターゲット配列にはTks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)TaKaRa Ex Taq(製品コード RR001A/B/C)TaKaRa LA Taq(製品コード RR002A/B)PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)が有効です。まずは、Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)をお試しください。局所的にATリッチ領域が存在し全体のAT含量が60%を超えるため他のPCR酵素で増幅できないターゲットを増幅した実績があります。正確性が要求される増幅においてはPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)をお勧めします。添付のバッファーを用いた標準的な反応において、PrimeSTARシリーズの中で最もATリッチな鋳型に強い酵素です。
ただし、バイサルファイト処理したDNAなどウラシルを含む鋳型は使用できません。
Q9 バイサルファイト処理したDNAに使用できる酵素は?
A9 TaKaRa EpiTaq HS( for bisulfite-treated DNA)をご使用ください。本酵素ではマグネシウム濃度やdNTP濃度を調整することにより増幅効率、反応特異性を調節できるため、これまで増幅できなかったターゲットに関しても良好な増幅を行うことができます。
なお、Methylation Specific PCR(MSP)解析を行う場合には、MSP専用試薬EpiScope MSP Kit(製品コード R100A/B)をご使用ください。
Q10 PCR阻害物質に強い酵素は?
A10 通常のPCR酵素では増幅が困難なPCR阻害物質を多く含むクルードサンプルからのPCR増幅には、Tks Gflexが最適です。Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)はGCリッチ、ATリッチを問わず広範なターゲットを効率よく増幅します。
MightyAmp DNA Polymerase Ver.3(製品コード R076A/B)は血液サンプルなどからのダイレクトPCRも可能です。正確性を求める場合には、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)をお勧めします。標準プロトコールでも増幅が可能ですが、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)を2倍量使用することによりさらに反応性が改善される場合があります。
これらの酵素で増幅産物が得られない場合は鋳型DNAの純度を上げる必要があります。
Q11 多サンプルの電気泳動解析に適したPCR酵素は?
A11 完全プレミックスタイプのためPCR 反応液の調製が簡単で、反応後は直接アガロースゲル電気泳動にアプライできるEmeraldAmp MAX PCR Master Mix(製品コード RR320A)EmeraldAmp PCR Master MixおよびSapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)がお勧めです。EmeraldAmpシリーズは高性能タイプで、GCリッチ、ATリッチ等にかかわらず、広範な鎖長のターゲットを特別なPCR条件設定を行うことなく増幅可能です。
一方、SapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)は高速PCRに対応しており、迅速なPCR判定が可能です。
Q12 コロニーPCRに適した酵素は?
A12 菌体(核酸)持ち込み量の影響を受けにくく、またPCR反応液を直接アガロースゲル電気泳動にアプライできるEmeraldAmp PCR Master Mix(製品コード RR300A/B)EmeraldAmp MAX PCR Master Mix(製品コード RR320A)およびSapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)がお勧めです。
Q13 イノシン含有プライマーを使用する際の注意点は?
A13 TaKaRa Taq(製品コード R001A/B/C)TaKaRa Taq Hot Start Version(製品コード R007A/B)およびMightyAmp DNA Polymerase Ver.3(製品コード R076A/B)は、イノシンを含むプライマーが使用可能です。
3'→5'exonuclease活性をもつPCR酵素(PrimeSTAR HS DNA PolymerasePrimeSTAR Max DNA PolymerasePrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)TaKaRa Ex TaqTaKaRa LA Taqなど)を用いる場合、イノシンが含まれるプライマーを使用すると反応性が著しく低下しますのでご注意ください。これらのPCR酵素で混合プライマーが必要な増幅には、degeneratedプライマーを使用してください。
Q14 マルチプレックスPCRに適した酵素は?
A14 Multiplex PCR Assay Kit Ver.2をお勧めします。プライマー設定や反応条件の至適化といった煩雑な作業を必要とせず、最小限の検討でマルチプレックスPCRを行うように調製されたキットです。
Q15 各酵素での増幅産物の末端形状は? また、最適なクローニング方法は?
A15 酵素の種類に応じて以下のようにクローニングを行ってください。
PrimeSTAR シリーズおよびTks Gflex DNA Polymeraseの場合
PrimeSTARシリーズのDNA Polymeraseは非常に強い3'→5'exonuclease活性を有するので、増幅産物のほとんどが平滑末端となります。Mighty Cloning Reagent Set (Blunt End)(製品コード 6027)を用いて、平滑末端ベクターにクローニングしてください。Mighty TA-cloning Reagent Set for PrimeSTAR(製品コード 6019)を用いれば、Tベクターにクローニングすることもできます。
TaqシリーズおよびMightyAmp DNA Polymerase Ver.3の場合
TaKaRa TaqTaKaRa Ex TaqTaKaRa LA TaqSpeedSTAR HS DNA Polymerase(製品コード RR070A/B)EmeraldAmp MAX PCR Master Mix(製品コード RR320A)EmeraldAmp PCR Master Mix(製品コード RR300A/B)SapphireAmp Fast PCR Master Mix(製品コード RR350A/B)、およびMightyAmpによる増幅産物のほとんどは、3'末端にdAのオーバーハングを有しますので、Tベクターへのクローニングが可能です。Mighty TA-cloning Kit(製品コード 6028)をご利用ください。もちろん平滑末端化処理後、Mighty Cloning Reagent Set (Blunt End)(製品コード 6027)を用いて平滑末端ベクターにクローニングすることもできます。

トラブルシューティング編

Q16 増幅産物が全く得られない。何から検討すればいいか?
A16 
  • 各酵素共通
    プライマーの配列、長さ、GC 含量を適切にしてください。
    20 merより短いプライマーの場合、シャトルPCR(2ステップPCR)では増幅が難しい場合があります。
    ForwardとReverseのプライマーのTm値が5℃以上異なる場合、うまく増幅しない場合があります。低い方のプライマーのTm値を基準としてアニーリング温度を設定し直すことで改善できる場合があります。
    純度の低い鋳型や阻害物質を含む鋳型は増幅が難しい場合があります。そのような場合、Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)MightyAmp DNA Polymerase Ver.3(製品コード R076A/B)などのPCR阻害物質に強い酵素を用いると改善される場合があります。
    反応液量を適切に設定してください。サーマルサイクラーとPCRチューブの組み合わせによっては、10 μl以下の少ない反応液量では増幅が起こりにくい場合があります。
  • PrimeSTAR HS DNA Polymerase(製品コード R010A/B)の場合
    適切な鋳型量に変更してください。鋳型がゲノムDNAやcDNAライブラリーの場合は、反応液量が50 μlのときに添加する鋳型量を約100 ng以下にして再度お試しください。
    伸長時間を1分/kb以上に設定してお試しください。 プライマー濃度を上げることで改善する場合があります。
  • PrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品コード R045A/B)の場合
    鋳型量が多い場合には伸長時間を変更してください。50 μl反応液中の核酸量が200 ngを超える場合、伸長時間は30~60秒/kbを目安として設定してください。
    プライマー濃度を上げることで改善する場合があります。
  • Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)の場合
    通常の設定は30秒/kbですが、クルードサンプルからの増幅や、増幅産物が得られない場合には伸長時間を1分/kbに設定してお試しください。
    プライマー濃度を上げることで改善する場合があります。
Q17 非特異的増幅やスメアが見られる。どこを変えればいい?
A17 
  • 各酵素共通
    特異性の高いプライマーを使用してください。
    プライマー使用量、酵素量、鋳型量は適切か、伸長時間の設定が長すぎないかを確認してください。アニーリング温度を2℃ずつ上げてお試しください。2ステップPCRが有効な場合もあります。
    鋳型が微量な場合には、Nested PCRも有効です。
  • PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(製品コード R050A/B)の場合
    1 kb以下の増幅を行う場合、プライマーをTm値が55℃を超えるように設計し、アニーリング温度を60℃に設定して反応してください。プライマーのTm値が55℃以下の場合は、伸長時間を5秒~10秒/kbまで短縮してお試しください。
  • SpeedSTAR HS DNA Polymerase(製品コード RR070A/B)の場合
    伸長時間を必要以上に長く設定するとスメアが生じる場合があります。10~20秒/kbを目安に設定してください。増幅量が少ない場合には、5サイクル程度増やしてお試しください。
  • Tks Gflex DNA Polymerase(製品コード R060A/B)の場合
    伸長時間を必要以上に長く設定するとスメアが生じる場合があります。特に増幅サイズが短い場合(1 kb以下の場合)、10~20秒/kbまで短縮してお試しください。

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